俺は彼女のことが大好きだ。
「黄瀬」
彼女はどちらかというと、今流行りの、あーと、所謂ゆるふわ?のようなふわふわしたかわいらしいかんじの女の子ではない。むしろその逆で、クールでドライで時々びっくりするくらい男前だったりして、そんな彼女に俺がいつだって大いにときめいちゃっていることは、彼女には内緒だ。
「んー?」 「そんなべたべたするな、暑苦しい」 「えー!嫌ー!絶対離さないもんー!」 「もんって、女子かおまえは」
びしりと、後ろからなまえに抱き着く俺の腕を彼女が軽く叩いた。あああ、呆れた顔もかわいいっすね!と俺が叫ぶと、なまえはさらに呆れた表情を浮かべながら苦く笑った。ああ、もう。どうしよう、俺、きみが好きすぎて、頭おかしくなりそう。
「なまえー!」 「おまえはすりすりするのがほんと好きだな」 「えへへー!」 「顔、ゆるみすぎだ」
きみとこんなふうにだらだらと過ごす時間が、俺には何よりもいとおしい至福のとき。お泊りの日はいつも、彼女が愛情こもった手料理を作ってくれるけれど、それはいつも俺の好きなものばかりで、だけどバランスよく偏りなく作られているせいか、好物以外のものでも彼女の作ったものなら嫌いなはずのものでもおいしく感じるからほんとに不思議なんすよねー。
「今日もおいしかったなー、なまえほんとプロすぎー!」 「普通の家庭料理だけどな」 「だって、俺、煮物とか嫌いだったはずなのに、なまえが作ったのだとほんとおいしいっすよー?」 「うれしいこと言ってくれるなあ」
そして、作ってる間は手伝わせてもらえないけど後片付けは俺の担当だったりするんだよねぇ。その後片付けのあとで、食べ終わってテレビを見ている彼女を後ろから抱きしめて、こうやってだらだらと過ごすのがいつものパターンで。そんなときが最高にしあわせ。なまえの抱きしめたときの感触とか、においとか。本当に、落ち着くんだ。日々の煩わしさとか疲れとかが一瞬で吹っ飛んでしまうくらい、ほんとうにほっとするよ。ああ、俺の居場所はここなんだって、きみのとなりなんだって。そうおもうんだ。
「はは、もうこれはずっと作ってあげるしかないな?」 「えええええ!なにそれプロポーズ?!」 「黄瀬、毎朝おいしい朝食を作るから、どうか婿になってくれないか?」 「っなるなるー!!超なるっすー!!!」 「は、チョロすぎだろ、現役人気モデル」 「ぜったい!ぜっったい!!絶対幸せにするっすよー!!」
ばかわいいな、黄瀬は〜となまえはからからと笑うけど、もちろん冗談のつもりだったんだろうけど、俺は結構まじだったんだけどなあ。まあ、今はまだいいけどね。きみをお嫁さんにもらうのも、毎朝おいしい朝食を作ってもらうのも、そうして俺が後片付け担当するのも、そのあときみを抱きしめながらありがとうを言うのも。それは、きっとそんなに遠くない未来だから。いつか、必ずそんな日を手に入れてみせるっすよ!
「あー、でもさ」 「んー?」 「黄瀬が幸せにしてくれる必要なんてないぞ?」 「えっ!」 「……そんな泣きそうな顔するなよ」 「だだだだ、だってえええ、なまえがー!」 「そうじゃなくてだな、」
後ろからなまえをぎゅーっと抱きしめてくっつき虫になっていた俺があまりにも情けない顔をしていたのか、なまえが体勢を変えて俺の方に向きかえって、それからふっと表情をゆるめたなまえがどうやら泣きそうになっているらしい俺の顔を両手で包み込んだ。
「私はおまえといるだけで、おまえが傍で笑ってくれるだけで、ただそれだけで十分に幸せだよ」 「……へ」 「だからな、涼太」 「…うん」 「いつもどおりのおまえでいいんだ、いつもどおりの、ありのままの素直なおまえで笑ってな?」 「…うん!」 「ただ、そのままの涼太が好きだよ」
ああ、おれも。おれもだよ。そんなきみが好きだ、大好きだ。ありのままでいい、作る必要なんてないんだと、昔そう言って俺を本気で叱ってくれたきみに惚れてから、俺はずっと、ずっと。
「えへへ」
笑ったり、怒ったり、泣いたり、拗ねたり、子どもみたいに。いろんな表情を出せるようになったと思うんす。あの頃、きみに出会うまでの俺は本当にぜんぶ作り物ばかりだった、ほんとうの俺が一体どこにいるのか俺ですらわからないほど。だから、ほんとうの俺を見つけてくれたきみに、そんな俺に一番最初に笑いかけてくれたきみに。――俺はずっと、恋をし続けているんだ。
「うううううう〜!なまえ〜!!!」 「はは、泣くほどうれしいのか?」 「なまえー!!好きっすー!!!」 「はいはい、かわいいなおまえは」
どんなに俺がかっこわるくても、泣き虫で、臆病で、きみなしじゃ生きられないほど弱虫で寂しがりやだとしても、なまえはいつだって笑ってくれる、頭を撫でてくれる、抱きしめてくれる。だから、なまえがただ傍にいてれくれるだけで、俺もしあわせになれちゃうんだよ。
「まったく、身長180越えの男がずいぶんと泣き虫だなあ?」 「もー!なまえのせいっすもんー!」 「はは、悪い悪い」 「ばかー!好きー!!!」
そうして、がばっと勢いよく抱き着いた俺を受け止めたなまえは、俺の頭をやさしく撫でた。ああ、世界でいちばん、きみがいとおしい。きみの存在、ただそれだけがこれほどまでに俺を幸福にしてくれる。だから、ずっとそのままのきみでいてね。ずっと一緒に、こんなふうにこの先も生きていこうね、なまえ。
息を止めると溺れる自分に出会えるんだ
130128
黄瀬をうれし泣きさせる。 でもなんかちがう。
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