※とても生ぬるいものですがわずかばかり性的な表現を含みますので、こちらのお話はR15とさせていただきます。義務教育を修了されていない方は閲覧をご遠慮ください。






「赤司っち」


放課後の部活終了後、苗字とお互い制服に着替え校門で待ち合わせるのがここ数日の日課となっていた。ほとんど俺のほうが先に着替え終わるため、苗字がやって来るのを校門で待つのはいつものことだった。そして、今日も苗字が来るのを校門で待っていた俺に声をかけた人物がいた。


「ああ、黄瀬。何か用か?」


部活のチームメイトであり、また俺の「彼女」である苗字なまえのいとこである黄瀬涼太だった。黄瀬があまりにも苦い表情を浮かべているものだから、俺はそれがなんとも可笑しくてつい笑ってしまった。そして、それを見た黄瀬は余計に表情を曇らせた。


「…なまえを待ってるんすか?」
「ああ、一緒に帰ろうと思ってな」
「ここ最近……毎日っすよね?」


ああ、なんて顔だ。どうやら、黄瀬は本当に苗字が心配でたまらないらしい。そんなにも、お前は大切なのか。それほどまでにお前にとって苗字は大切な存在なのか。俺がにやりと笑うと、黄瀬はさらに苦悶の表情へと遷移させた。


「だから、どうだと言うんだ?」
「…それはっ」
「曲がりなりにも俺たちは「恋人」という関係だ、だから毎日一緒にいても何らおかしなことではないだろう」
「俺は、ただ……!」
「ああ。そうだな、それに少なくとも」


ああ、気にくわない。なんだ、お前その顔は。ちらりと向けた視線の先で、黄瀬の握りしめられた拳は小刻みに震えていた。それを見て、俺はさらに一層笑みを強めた。果たしてその感情にあるのは一体どんな内容のものなのだろうか。悔しいのか、憎らしいのか。黄瀬の表情があまりに哀れで、やはり俺はどうしようもない優越感にじわじわと浸されていくのだ。ああ、本当になんて。


「――ただのいとこであるお前などに、とやかく言われる筋合いはない」


なんて、愚かなのだろうか。お前は、本当に分かっていない。彼女は俺のものだということを。


「お待たせ、赤司くん!」


そうやって満面の笑顔で走ってきたかわいい苗字を引き寄せる。突然のことに驚いたらしい苗字が「わっ」と声を上げ、あまりの至近距離に恥ずかしそうに頬を赤く染めたが、それさえもかわいらしく思えて俺はさらに口角を上げる。ああ、本当になんていじらしい。かわいい、俺の苗字。お前は、俺のもの。


「……なまえ」
「あれ?涼太くん、どうしたの?」
「そういうわけだ、黄瀬。話は以上か?」
「赤司っち…!」
「ならばこの話はこれで終わりだ」


そうして締めてしまえば黄瀬は黙るしかなく、ただ沈黙のうちに問うような視線を交えることでなおも俺を責めようとするから、本当にまったくどうしようもないな。今さらどうなるというわけでもないというに。まだ、手放すつもりはないのだから。俺たちの様子に疑問符を浮かべる苗字の手を掬って握りしめてやれば、苗字はうれしそうにはにかんだ。


「では俺たちは帰る。黄瀬、また明日な」
「え?あ、またね、涼太くん!」
「……うす。また明日、ふたりとも」


困ったように笑いながら手を振る黄瀬を、未だに苗字が見つめ続けて離さないのが面白くなくて、それを振り切るように俺は苗字の手を引いて歩き出した。おもしろい、わけがない。俺の傍にありながら他の人間に目を向けるなど。


「苗字」
「……えっ!なあに、赤司くん?」


きょとんと首を傾げながら苗字が俺を見つめる。その、一点の曇りない瞳が映すのは、今はただ俺のみで。ああ、なんていとおしいのだろう。


「今日、俺の家」


来るだろう?、そう耳元でやさしく、そして甘く囁いてしまえば、雪のように白い頬は一瞬にしてやはり赤く、俺の色に染まる。これからのことを想像したのか、苗字は再び恥ずかしそうに俯きながら小さく頷いて了承の意を示した。既にこのようなことは数回に及ぶというのに、こんなところは"初めて"のときからまったく変わらないのだからやはりいじらしくていとしさがこみ上げてしまう。俺だけを、盲目的なまでに見つめる苗字が、お互いを繋ぐ手をぎゅっと握りしめた。







「…あ……あかし、くん…!」


競り上がる快感を逃がすように、俺の下で苗字が甘い吐息をこぼす。まさか、俺が逃がしてやるわけがないのに本当にバカな子だよ。容赦なく襲いかかる快感に耐えきれず、上へ上へと逃げようとする腰を捕まえてしまえば苗字は今度は涙をこぼして懇願した。


「ダメだ。まだ、許してやらない」


大きすぎる快楽にとろけた瞳が俺を、俺だけをやはり見つめるものだから、ふと先ほどの黄瀬を思い出した。バカな、やつだ。苗字なまえという存在は俺のもので、俺が既に彼女のすべてを掌握しているというのに。苗字が想い募らせるのも俺だけ、苗字があの曇りない瞳で見つめる存在も俺だけ、こんなふうに苗字のすべてを暴き、やさしく蹂躙し、だらしなく快楽に身を落とさせることができるのもすべて、すべて俺だけなのだから。


「ああっ……あかしく、んっ……!!」


苗字が手を伸ばして求めてくるから、小さなその手をとって口づける。いとおしい、俺のかわいい苗字。


「愛しているよ」


犯しながら抱きしめて、囁きながら口づけて。そうしてしまえばもう、お前はどうしようもなく俺にすべてを捧げて、愛を乞う。そのうれしそうな、幸せそうな微笑みはきっと誰も見たことのない俺のためだけのもので。ああ、本当になんていとおしい。かわいすぎて、いじらしすぎて、本当に。


――お前のすべてを奪い尽くして暴き尽くして、ずたずたに踏みにじってやりたくなる。







となりで目を閉じて眠る苗字の儚い寝顔を眺めて、それからその瞼にそっと口づけを落とせば次第にその表情は苦しそうなものへと変わっていった。眉間にしわを寄せて唇さえ噛み締めるから、そっと髪をすいて頭をやさしく撫でてやればいくらか寝顔は和らいでいった。果たしてどんな夢を見ているのだろうか。お前を苛むそれはこの俺にすら払えないものなのか?そう思うと何故か苛立ちを感じて、苗字を抱き寄せて腕の中へと閉じ込める。


「………すて…い、で……」


やがて小さく呟かれたその音はあまりに儚く、そして切なかった。再び窺った苗字の瞼からはひとすじの、透明なしずくがこぼれ落ちていった。


「……捨てたりなんか、しない」


そのしずくを舐めとって、もう一度瞼に口づける。それでも苗字の表情は晴れることはなくて俺は何故かそれが悔しくて悔しくて堪らなくて、ただ苗字を強く抱きしめてやることしかできなかった。


――あなたは、わたしの一番です。


俺が、お前を捨てる?まさか、俺はお前を捨てたりはしないよ。捨ててなどやらないさ。誰が、こんなにもバカで従順でかわいい存在をそう易々と手放してなどやるものか。お前は、俺のもの。少なくとも、お前が俺だけを想い慕い、俺だけにすべてを捧げ従っている間は、これ以上ないくらいどろどろに甘やかして、俺以外はいらないと泣いて乞うまでに強くやさしく愛でてあげるさ。


――だから、お前は何も考えず俺に愛されていればいいんだ。ただ俺の望むままに、お前のすべてを捧げ続ければそれだけで、お互いの心の隙間を俺たちは埋め続けることができるのだから。




恥じらう花を嗤うのか?




130407