「今日さ、すごくびっくりしたんだけどね」
それは冬休みに入る直前のことだった。ついこの前入学したような気もするけど、私たちももう中学二年であって、年が明けて春が来たらもう三年生なんだよなあ。なんてしみじみ思ってしまうくらい、時の流れってやつは早い。
「どうかしたんですか、苗字さん」 「うっかり赤司が告白されてる場面に遭遇しちゃったんだよ」
なんて相槌を打ってくれた黒子にちらりとこぼすと、どうやら聞こえていたらしい黄瀬がえええええ!!!まじっすか!と叫び声をあげた。
「まじかよ、苗字、詳しく!」
青峰も便乗してきて、相手の女の子のおっぱいのサイズを聞いてきたときは足が出ずにはいられなかった。いってえ!何すんだ苗字!!とお尻を抑えながら怒鳴る青峰にザマァって言ったら今度は私がげんこつを食らってしまった。おい、手加減しろよ。
「で、どうだったんッスか?!」 「あんたらはそんなに気になるの?」
食いつきすぎやしないかとふと疑問に思った。モデルをしている黄瀬はまあ、置いておいて、赤司だって結構モテるんだろうってことは予想できることじゃないか。眉目秀麗、成績優秀、何でもできるチートなやつ。神はやつに二物三物どころか千くらいのものを与えた、与えすぎてしまった。それが幸か不幸かは私には分からないけど。
「そうだね、すごくかわいい子だったよ」 「おっぱいは?」 「黙れよ、青峰」
うん、かわいい子だった。やさしそうでかわいらしい、ほわほわした感じの子。髪の毛がふわふわしてて、色の白い頬をりんごみたいに真っ赤にしているのがやけに印象的だった。赤司に恋をしているって顔だった。
「そうじゃないッスー!」 「え、なにが」
何故か黄瀬が首を横にめちゃくちゃ振りながら、若干涙目で私を見てきた。え、なんだこいつ。やっぱあんたもおっぱいが聞きたかったの。
「あなたは、どう思ったんですか?苗字さん」
そうして黒子がいつものポーカーフェイスで提示した疑問に対して、黄瀬が今度は首を縦に振って同意を示していた。あ、なに、それを聞きたかったの。
「…なんで私?」 「だって!苗字っちは、」
黄瀬がそこまで言ったあたりで、赤司が部室にやってきた。ちなみに緑間は委員会の所用で遅くなると言っていたし紫原はお菓子調達してくると言っていたので、いつも赤司の両脇を固めている二人は現在不在である。
「あ、赤司」
声をかけたら、ああ、と短いが返事をきちんとしてくれた。なんだかいつも通りの対応だったし、いつもと同じのようだけれど、あの告白の返事はどうしたのだろうか。ふと、それが気になった。
「じゃあ、赤司着替えるだろうから、私先に体育館行ってるわ」
足早に立ち去った私の背中を黒子たちが意味ありげに見つめていたが、気付かないふりをした。
*
「赤司、今日告白されたってまじかよ?」
苗字さんが立ち去ってから即座に青峰くんは、おもむろに着替えを始めた赤司くんに尋ねた。赤司くんは大して動揺するでもなく、ゆっくりと青峰くんを振り返って事もなげに尋ねた。
「どこでそれを聞いたんだ?」 「苗字さんがさっき言っていました」
本来こういうことは、図らずも目撃してしまった彼女の名誉のために、あまり本人に直接聞くべきではないのだろうけど、ボクらは尋ねずにはいられなかった。いつも通りの冷静な態度であった赤司くんが、ボクが苗字さんの名前を出した瞬間、わずかにピクリと肩を揺らしていた。
「ああ、あれか。断った」 「どうして断っちゃったんッスかー?!」
黄瀬くんの質問に対して、ちょうど練習着に袖を通したところだった赤司くんは眉間にしわを寄せていぶかしげな表情を浮かべながら、小さく呟いた。
「…さあね、興味がないからな」 「は、かわいかったんだろ?付き合っちまえばいいのに」
青峰くんがにやにやしながら尋ねた。その表情に反して赤司くんはさらにいぶかしげな表情を強めた。
「かわいい?あれをかわいいというのか?」 「ハア?」
赤司くんは真剣な顔でつぶやいた。本当に疑問に思っているようで、いかにもわからないという顔をしていて、なんだかピンときたボクと黄瀬くんは思わず顔を見合わせてしまった。
「苗字さんがそう言ってました」 「…そうか」 「じゃあ、赤司っちはどういう子をかわいいと思うんすか?」
黄瀬くんの問いに赤司くん再び首をかしげて真剣に悩んでいた。そして、おそらくすぐに答えが出て、その答えに内心困惑しているんだろうなっていうのが透けて出ていた。赤司くん、その答えはきっと正解です。
「今、ふと思ったんだが、」 「なんだよ?」 「…俺はどうやら苗字のことをかわいいと思っているらしい」
黄瀬くんが満面の笑顔でさらに追撃した。
「赤司っちは苗字っちが好きなんすね」 「………」
無言が示しているのはきっと是の解答。赤司くんはどうやら思わぬものを引きずり出してしまったことに困惑しているらしく、眉間にしわを寄せてしばらく悩んでいたが、しばらくして一度だけ小さくため息をこぼして、それから困ったように笑った。
「そうか、俺は苗字が好きなのか」
おめでとう、それが答えです。
121223 鈍感赤司
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