「来てくれたんだね」
沢田綱吉はとても、とても弱い少年だった。そう、だったんだ。運動はできないし成績は悪いしドジだしよく同級生に絡まれるし、終いにはダメツナなんてあだ名まで付いていた。でもだけど、綱吉は自分から誰かを傷つけるなんてことは、絶対になかったんだ。いつも、なんだかんだで笑って許してた。だから綱吉の弱さは優しさだと、あたしはずっと思ってた。いや、今でもそう思ってる。
「当たり前でしょう。あたしが来ないとか疑ってたわけ?」 「………まあ、少しだけ」
だから幼いあたしはいつも、優しい幼なじみを守るんだって、思っていた。転んだときは、手をさしのべて絆創膏を貼ってあげて。同級生に泣かされたりしたら、あたしが倍返しで制裁を加えたりなんかして。テストで切羽詰まったときは、勉強を教えてあげたりとか。たくさん、たくさん手助けをした。
「来るに決まってるでしょ。だって、大切な幼なじみの、大事な日なんだもの」
でも、いつからかそんなものはいらなくなっていった。いつからか誰も彼をダメツナなんて呼ばなくなった。誰にも馬鹿にされなくなった。誰も彼を笑ったりなんかしなくなった。あたしの手助けを、必要としなくなった。
「…うん。ありがとう」
その時あたりだ。綱吉の周りには、あたしの知らないたくさんの人が集まるようになった。綱吉があたしを頼らなくなって、お互い関わることが減っていって、それから、幼い頃からの付き合いは希薄になって。
「びっくりしたよ。まさかイタリアまで来ることになるとは」 「うん。今はこっちに住んでるからね」 「そうなんだ。知らなかったわー」
嘘。知ってたよ。あんたが、綱吉がイタリアに住んでることなんて。知ってるよ。あんたが、虫すら殺せなかったあんたが、マフィアのボスになったことなんて。
「本当に、来てくれてありがとう。きっとあいつも喜ぶよ」
知ってたよ。知ってたよ。あんたが京子ちゃんがすきだったことくらい。分かってたよ。二人が結婚することなんてこと、なんて。ずっとずっと、知ってたよ。だって、ずっと傍にいたんだもの。気づかない筈がない。だって綱吉、イタリアへ行くこと京子ちゃんにはちゃんと言ってたんでしょう。あたしには、一言も、言わなかったくせに。
「……幸せに、なってね。綱吉」 「うん、ありがとう」
大人になっても、マフィアのボスになっても、笑い方だけは変わらないんだね。すごく幸せそうだよ、綱吉。……よかった。ねえ、これであたし[幼なじみ]を引退していいよね。あんたを守る、っていう役割を。もう、いらないもんね。今度はあんたが、大切な女の子を守る番だもんね。
*
幸せの絶頂であるあたしのだいすきな二人は、指輪を交換して、誓いのキスをして、みんなに祝福されて、そのまま、今日がふたりにとって一番の大切な日に、なるはすだった。でも、
「十代目っ!ここは危険ですっ。笹川連れて逃げて下さい!」 「でも!そんなわけにいかないだろっ!?」
幸せになるはずだった。あたしのだいすきなふたりは、今日。でもよく知らないけどおそらく綱吉のライバルマフィアである人たちが、攻め込んできた。誰もがふたりを祝福して、幸せでいっぱいだったここは一瞬にして戦場になってしまった。銃弾が行き交い、死者も何人かいる。折角の、ふたりの結婚式だったのに。みんな笑ってたのに。綱吉が戦わなきゃならないなんて。あんまりだ。神様は、あんまりだ。折角あたし、
「………!京子ちゃんっ………!!」
銃声、悲鳴、あたしを呼ぶ声。ぬるりとした、感覚。京子ちゃんを狙っていた銃が見えたんだ。守らなきゃって思った。大事な大事なだいすきな幼なじみの、大切な人。あぁ、だめだよ。京子ちゃん。花嫁は笑わなきゃ。ちょっと空気読めないばかな人たちに邪魔されちゃったけど、今日はあんたたちの大事な日なんだからさ。折角綺麗なんだから、ね、ほら笑わなきゃ。……あ、綱吉だ。なによ、あんたそのしけた面は。あんたこんな可愛い嫁さんもらったんだからもっといい顔しなよ。ね、ほら笑って。あ、そうそう、最期にあたしからふたりに伝えたいことが。
「…どうか、お幸せに」
幼なじみのナイトはこれにて要なしだね。
世界に優しい終焉
090508 130119 懐かしすぎてやばいです。リボーン20巻くらいまでしか読んでないのでもしかしたらへんなところあるかもしれないです。
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