俺が彼女に持っていた印象というのは、単純明快であり、それと同時にひどく曖昧なものでもあるのだと思う。俺の目に映る、彼女の全ては真っ白だった。
性格という面に於いても純粋で素直だが、見た目に於いても白色で埋め尽くされていた。彼女は夜兎でもないくせに、何故か俺よりも肌が白い。それも病的なまでに。それだけならまだしも、髪ですら色素が薄いのだ。控えめな性格からか、服もあまり派手な色は選ばないから彼女はまさに白一色で。
ただ彼女の中で唯一、鮮やかな、一際輝く色があって、俺は割とその色が好きだったような気がする。
「俺さ、」 「どうしたんですか、団長」 「あんたの目って、結構すきだよ」 「…どうしたんですか、いきなり」 「あんた自体は別に好きじゃないけどね」 「何ですとー!」
彼女は地球産だから、あまり強いという訳じゃないけど、でも部下としてはそれなりに気に入ってた方。いや、ていうか反応が面白いってだけなんだけどさ。
「ねえ」 「どうしました団長」 「あんた、今日の任務、俺とだからね」 「げっ!」 「げって何かな?殺されたいのかい?」 「わーわー!違いますー!」
あははと明るく笑う彼女の手は、俺と同じく人殺しの手であるはずだ。なのに、なんで彼女はあんなに綺麗な白さを持つのだろうか。いつも疑問に思うんだ。
任務で訪れた惑星は、寒く凍てつく、雪に埋もれたような星だった。寒くて、堪らない。まあ、暑いよりかはいいんだけど、でもここまで寒いのは勘弁してほしい。吹雪が視界を埋め尽くして、至極目障り。後ろを振り返れば、寒いのか悴む手に息を吹きかけている彼女と目が合った。
「寒いですね、団長」
笑うと目が細まって、色素が薄く白い彼女は、雪ですっかり見えにくくなって。彼女が、近くにいるのか遠くにいるのか、一瞬だけ判らなくなった。
*
任務は完了した。はっきり言って、こんな寒さで身体はちゃんと動くのかなーとかちょっと心配してたんだけど、相手がびっくりするくらい弱かったから、全く問題はなかった。あれから日は変わって、吹雪は止んだ。視界は開けたけど、積もった雪のせいで結局は視界一面、白、白。なんだか目が麻痺しそうだ。チカチカする。目が、痛い。
後ろを振り返れば、彼女の姿が見えない。あり?ほんとに雪と同化しちゃった?俺は彼女を探すけど、どこにもいない。あるのは、雪の白と、死体と、そいつらの血と。それだけだ。彼女の姿はない。
仕方なく探していれば、いた。雪の上に、俺が殺した死体たちの中に。見つかるわけがないよね。こーんな真っ白な彼女が雪の上にいたんじゃ、ね。あはは、バカだなあ。こんな弱っちい奴ら相手にくたばるなんて。
彼女の白はよく見れば、赤色にも染まっていた。それでも大部分は白いから、まるで雪に侵されてるみたいに雪の白に埋もれている彼女。俺が好きだと言った、唯一白色じゃない瞳も、今では閉じられている。まさしく彼女は白一色になった。
光を含んだ銀に近い白色の髪も、病的な肌の白さも、俺が好きだと言った綺麗なエメラルドグリーンの瞳も、彼女の何もかもを、雪の中に埋めた。ああ、雪葬なんて、あんたにぴったりじゃない?よかったね。しかも俺がちゃんと埋めてあげたんだから、どうか喜んでよね。
*
「ありゃ?団長、ひとりか?もう一人はどうした」 「んー?あぁ、死んじゃった」 「…まさか殺したんじゃないよな」 「殺してないよ」 「……、そうか」
阿伏兎が苦い顔をする。なんだい?その顔は。
「団長、大丈夫か?」 「なにが?」 「あいつのこと、割と気に入ってただろ」
まあね。嫌いじゃ、なかったはずだよ。特には口に出さなかったけど。
――ねぇ、もし雪が溶けて、春になって、あんたが白い骨になったら今度はちゃんと埋めてあげるから。だからもし少し、待っててよ。
白 に 還 る ( 春は、まだ少し先だ。 )
090508 130119 企画サイトに提出しようと思ってたけどサイトさんが閉鎖されて眠ってたやつを修正。4年近く前のなのに文章力が全然変わってなくて絶望しました。
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