「花宮」 「なんだよ」
久しくうちに来ていなかった幼なじみのなまえが、突然やって来たかと思うとベッドに人を押し倒してマウントポジションをとりやがった。なまえが俺のネクタイを引っ張っているため背中がベッドにつくことはなく、上半身は肘で支えている状態であるが、下半身はなまえに乗っかられているので全く身動きがとれなかった。
「花宮、今日誕生日でしょ」 「それがなんだよ」
なまえはにやりと笑っていた。いい加減ネクタイ離せよバァカ。圧迫されている首筋が不愉快で、思わず眉間にしわが寄る。そんなことより、いつからなまえは俺を花宮と呼ぶようになったのか、急に気になって仕方なくなった。なまえに花宮と苗字で呼ばれるのは、何故だかむず痒くて胸くそ悪いような気がした。
「17歳、おめでとう」 「…それを言いに来たのかよ?」 「うん、そうよ」
満足そうになまえは笑った。俺はもっと不愉快になった。
「分かった、分かったから、早くそこを退けろブス」 「お礼くらい言ったらどうなの」 「うるせぇな、いいから退け」
なまえが更に笑って、俺のネクタイをより強い力で引っ張った。俺となまえの距離がゼロになり、お互いの唇が重なりあった。なまえとキスをしたのは何年ぶりかとふと気になった。昔は、なまえがまだ俺を名前で呼んでいたかつての幼少時代には、幼い少年少女の戯れとしてよくこんなふうにキスをしたものだった。
「マコちゃんが大好きな、わたしなまえちゃんから、ちゅーのプレゼントです」
なまえが再びにやりと笑う。ああ、クソ。胸くそ悪い。お前、いつからそんな女の顔をするようになったんだよ。
「全部よこせ、って言ったらくれんのかよ、なまえ?」 「マコちゃんは本当にわたしが昔から好きだわね」 「好きに決まってんだろ、今さら変わる気もねぇよ」 「真」 「…んだよ」
つい我慢できずになまえの太ももに手を這わせると、パシりと勢いよく払われた。んだよ、今さら焦らしてんじゃねぇよ。
「好きっていって」 「…好きだ、なまえ。ずっと、お前が好きだ」 「わたしも好きよ、真」
ようやくゴーサインが出た。ああ、ようやく、ようやくお前が手に入る。誕生日なんて歳を一つとるだけなのだから正直どうでもよかったのだが、長年乞い願い続けたお前が手に入るなら悪くないと思った。何故ならずっと俺はお前が好きだったから。惚れた弱みか、何故かなまえはいつも俺よりも一枚上手で、いつも俺の方があしらわれてばかりだった。そんななかなか手に入れることができなかったお前がようやく、手に入るのかと思うとつい口角が上がってしまう。なまえが昔と変わらず大人びた表情でにっこりと笑う。
「誕生日おめでとう、花宮」
そこは真って呼べよバァカ。
17年目のあなたへ
130112 Bon Anniversaire, Hanamiya!
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