「おはよう、黄瀬くん!」


黄瀬くんはわたしのことなんて、好きになってくれないことはわかってる。


「おはよッス!苗字さん」


それでも、かまわなかった。わたしの想いが届かなくても、黄瀬くんの心の中には、あの子がいるのだとしても。


「朝練だったの?お疲れさま」
「も〜やばいっすよ〜!下手すりゃ中学んときよりキツいッス!」
「え、そうなの?がんばるねぇ」
「まあ、つってもたまーにサボるんすけどねっ」


黄瀬くんはいたずらっ子みたいな顔で笑うけど、キャプテンとか先輩とか怖くないのかな。わたしも黄瀬くんと同じく、帝光中学の出身なので、中学時代のバスケ部のことは少しは知っているつもり。中学時代のキャプテンは、赤司くん。ちょっと怖いけど、でも時々とてもやさしい目をするひと。そう、あの子の前では特に。


「かわいいマネージャーとかいたら、やる気でるかもね」
「本当に、そうなんすけどねぇ」


かわいいマネージャー。我ながらバカなことを言った気がする。自ら傷付くような発言をするなんて。かわいいマネージャー、とか。この言葉で黄瀬くんが誰のことを思い浮かべるかなんて、分かりきっていることじゃないか。


「そういえば、黒子くんね、誠凛高校に行ったんだって」
「あれ、そういえば黒子っちと仲良かったっけ?」
「うん、お友達」
「黒子っち、かあ」


久しぶりに会いたいッスね〜!いろいろ聞きたいこともあるし。黄瀬くんはつらそうに笑った。


聞いたことがある。黒子くんは、全中三連覇を成し遂げたあと、忽然と姿を消してしまったのだと。彼らになにがあったかなんて、わたしは知らないし、知りたくもないけれど。だって、わたしは、ただ黄瀬くんを応援するだけだから。


「黄瀬くん」
「なんすか?」
「わたし、応援してるよ」


ずっと、きみがバスケを始める前から、モデルをやってると知る前から、わたしはきみが好き。やさしいきみが好き。きみは知らないし、知ったとしてもきっと信じてはくれないけれど。




伝わらない


130108