バスケ部にマネージャーとして入部して一週間、春に入部していたらしい涼太くんと久しぶりに顔を合わせまして、お互いとても驚きました。ここ数年、わたしは一方的に涼太くんを避けていたんですが、涼太くんは相変わらずで前と変わらずわたしに接してくれて本当にほっと致しました。部活が終わって、一緒に帰ろうと言われたときは本当にうれしかったです。
「それにしてもまじで驚いたよー」
涼太くんは苦く笑った。
「え、なんで?」 「そりゃあ、なまえがバスケ部に入ったこと!」 「え、だから、赤司くんが誘ってくれたんだよ…?」 「そこ!そこだよ!」 「えっ、……ど、どこ?」
涼太くんはぐわしっとわたしの肩をすごい勢いで掴みました。ちょっと痛いんですが涼太くん。それにしてもすごい表情をしていますが、涼太くんてば、一体どうしたんでしょうか…?
「なまえって赤司っちと仲良かったっけ?」 「えっ、…う、ううん!!一週間前、部活に誘われた日に、…初めてお話した、んだよ?」 「えええっ」 「えっ?」 「…赤司っち……」
それから涼太くんは眉間にしわを寄せて何やら思案しているようでしたが、結局答えは出せなかったのか、その表情のまま、その時のことを詳しく話せと言いました。はあ、一週間前のことですか…。詳しくと言われても少し断片的かもしれませんね。赤司くんの魔法のような衝撃的な言葉ばかりがどうも印象に残っていますから。
「…えと、一週間前の、放課後のこと、だよ」
*
――俺が、お前の望みを叶えてあげよう。
赤司くんはそう言ってあまりにも蠱惑的ににやりと笑って、それからこう仰いました。
「苗字」 「…は、はいぃぃ!!」 「お前、バスケ部のマネージャーになれ」 「…………えっ?」 「そこでなら、お前の才も存分に活かせるだろう」 「…わたし、の…」
わたしの、才を活かせる。バ、バスケ部で…?……あ、そういえば赤司くんは確か我が帝光中学男子バスケ部のキャプテンだった気が。しかも、うちのバスケ部って全国でもトップの実力と実績を誇る強豪校、だったような……。や、やっぱり赤司くんって本当にすごい方なんですよね……!それにしてもどうしてそんなすごいお方がわたしなんかにお声をかけていらっしゃるのでしょうか!頭がもはやくるくるパー!です!赤司くんがわたしの手首を掴んで、何やら迫っているというなんともキテレツなこの状況の意味が馬鹿なわたしにはまったく理解できません……!!
「さっきの発言で分かった」 「な、なにをですか…!ていうか、てくび、…いい加減、は、はな、……っ離してください!!」 「うるさい、いいから聞け」 「は、はいぃ!!」
怖いよおおおおおおぉぉ!!!い、いま!ものすごく眼光鋭くていらっしゃいました…!まさに刺すような、とでも言いましょうか!危うく失神してしまうところでした!ものすごく鋭利な眼差しで本当に本当に怖かったです!……ああぁ、しかし部員数百を超える強豪校のキャプテンを務めるためにはこういったことも必要なのかもしれません。もしかすると、部員さんの中には赤司くんに畏怖の念を抱かれている方もいらっしゃるのかもしれませんね……。
「どうやらお前にはなかなかの観察眼と鋭い分析力があるようだ」 「…へ」 「さっきの、周りの人間にすら気付かれないほどの、サッカー部員の不調をお前は見抜いていた」 「…で、でも、」 「俺も知らないやつだが、リズムの乱れがあるのは確実であるし、現にあいつは足を痛めている」
な、なんで分かるんですか…と震えつつも思い切って尋ねてみると、俺には全て見えるんだ、とよく分からない回答をいただきましたが、そう仰ったときの赤司くんの目はぎらりと眼光鋭くていらっしゃったので、普通そんな常識はずれなことあり得ないはずですが赤司くんなら本当にできるんじゃないかという気がしてきました。
「そういえばお前は頭の回転も悪くなかったな」 「…えっ」 「なかなかの観察眼と分析力、――お前の才を」
赤司くんは、不敵に笑う。
「俺のために使え、苗字」
ああ、こんな、こんなわたしでも誰かために役立てられるのだろうか。誰かに、誰かに、必要としてもらえるのだろうか。
「お前が、必要なんだ」
――こんなにも無力でちっぽけだったわたし。そんなわたしをあなたは見つけてくれたんだ。もしも、もしも、いつか誰かがわたしをほんとうに必要としてくれたその時は、全身全霊をかけてその人のために生きると。わたし、ずっと決めていたんですよ、赤司くん。
ねつを欲する吐息と喘ぎ
ねぇ、赤司くん。 あなたは突然現れたわたしのシューティングスター。とはいっても、あなたはわたしが願い事を言い終わらないうちに叶えてくれたけれどね。あなたは、わたしを変えてくれました。単色だったわたしの世界を鮮やかな七色に染め上げてくれました。あなたが魔法をかけてくれてからずっと、わたしの周りはいつもきらきら輝いていたんですよ。赤司くん、あなたがわたしを変えてくれたこと、わたしの知らない世界を見せてくれたこと、ほんの少しだったけれど、わたしをあなたの世界の一部にしてくれたこと。そしてなにより、あなたがほんの一瞬でもわたしを必要としてくれたこと。
「さようなら、あかしくん」
わたし、ほんとうにしあわせでした。
130105
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