菅原孝支、烏野高校三年。男子バレーボール部副主将、ポジションはセッター。おちゃめな性格だけど、時々辛辣で容赦ない。あったかい笑顔と、穏やかな雰囲気が特徴的で、他の部員からの信頼も篤い。

私の、幼なじみである。


「孝ちゃん〜」

スマートフォンをいじっている我が幼なじみ殿を呼びかければ、スマートフォンの画面から目を離すことなく「んー」と間延びした返事が返ってきた。

「手、繋ごう」

そう、突拍子のないことを言い出せば、孝ちゃんがちょっとだけ目を見開いて、漸くこっちを見てくれた。折角一緒に帰るんだから、もうちょっと私のことを気にしてくれてもいいじゃないか。

「え、なんで?」
「逆に、なんでだめなの?」
「いや、だめとは言ってないだろ〜」
「では、何故聞くのか」

孝ちゃんがスマートフォンの画面を閉じて、「大地、今日は一緒に帰らないってさ」とそう言った。「ふぅ〜ん」と気のない返事を返すと、孝ちゃんが苦笑した。たまに、大地さんは私に気を遣ってくれるのだ。幼なじみ、とはなんとめんどくさい関係なのかと、今まで何度自問自答したか分からない。ある意味では特別だが、別のある意味では特別ではない。この曖昧さが心地よくもあり、時にひどくもどかしい。

「だって、手なんか、最近はほとんど繋いだことないだろ?」
「いいじゃんか〜」
「だから、だめとは言ってないべ〜」
「では、ほい」
「ほいって、お前」

くすくすと、穏やかに笑いかけられて、長年何度も目にしてきたはずの笑顔に心臓がどくんと大きく脈打った。その、にっと上がる口元が、やさしく下がる目尻が、だいすき。不思議なくらいに心平らかにしてくれる私のだいすきな、この笑顔に、救われている人はきっとたくさんいるんだろうなあ。

「……帰るべ?」

ぎゅっと握られた手のひらは、昔の記憶よりもずっと大きくて、あたたかった。小首をちょんと傾げて、そう言うので、それがあまりになんだかかわいらしくて、私は笑った。ほっぺが林檎みたいに真っ赤になってないといいなあ、そんなことを思いながら、私は思わずはにかんで、そうして一度だけ頷いた。そんな私を、まるですべて見透かしているかのように、孝ちゃんがまたしてもふわりと微笑みを浮かべた。

「……おまえ、本当に変わらないよなあ」

だって、仕方ないじゃないか。そう思って、反抗心から繋いでいる手に力を込めてぎゅーっ!と握り返してやるのだけど、、孝ちゃんはやっぱり目尻を下げて微笑んで、やさしい眼差しで、私を見た。その笑顔を前に、やっぱり私はどうしようもなくなって、そして孝ちゃんになんとか下手くそな笑顔で仕返しをしてやる他、ないのだった。

ーー今日も、一緒にいてくれて、ありがとう。

そんなことを、毎日思いながら日々を過ごして、もう早数年が経っていた。


140929
大切な人へ


数年来の友人のお誕生日に、愛を込めて。