※あの子といっしょにドSコンビが黄瀬を泣かせるお話 主犯:「いやいや、ボクのせいじゃないですよ断じて」
『黄瀬涼太?』 「はい」
先日入部したという黄瀬くんについて、男子バスケ部一軍マネージャーである上柿さんに告げると、彼女は少しだけ目を見開いて驚いた様子を見せた。確かに、黄瀬くんといえばこのマンモス校である帝光中でも有名人の一人で、あまり交友関係の広くないボクや彼女でも名前だけは知っている人物である。
『あのモデルで噂の黄瀬?』 「なんでも青峰くんに憧れての入部だそうですが」 『へー。まあ、確かに青峰はすごいよね』 「それが黄瀬くん、入部して数日で既に二軍に昇格しているらしくて。一軍入りも秒読みじゃないかって言われてますよ」 『え?そんなうまいの?経験者?』
上柿さんは少しだけ楽しそうに笑った。上柿さんもマネージャーとしてかなり板についてきているようで、最初はいやいやだったのに最近は少しだけ楽しそうでボクはほっとしている。彼女が何故バスケ部にマネージャーとして入部したかというと、実はその、彼女を気に入ったという赤司くんが嫌がる彼女を無理やり引っ張ってきたんですよね。
「そういうわけではないそうですね。生来のセンスだけで二軍まで這い上がったようです」 『へー、すごいんだね』
上柿さんは元々青峰くんと同じクラスで仲が良くて、よく青峰くんとケンカしてプロレス技(なぜかプロ並)をかけているんですが、偶然それを目にした赤司くんはそのあまりにも鮮やかな彼女の妙技に戦慄が走ると同時にすっかり惚れ込んだらしいです。「こんなところにこれほどの人材が眠っていたとはな…」といつもの悪ノリ+気まぐれで引き込んだらしいです。まあこのエピソードについてはまた次の機会にでも。
「もしかすると、もしかするかもしれませんね」 『…ここまで来るかもってこと?』 「赤司くんが珍しく期待しているようなので」
ボクが赤司くんに見出してもらったように、赤司くんは黄瀬くんにも期待しているような気がしてならない。早く、早く、ここまでおいでと。赤司くんはいつものようにニヤリと笑いながら、黄瀬くんがここまで上がって来るのを待っているんじゃないかと、そんな気がしてなりません。「キセキの世代」という天才たちだけが立てる、その頂点へ。黄瀬くんは彼らに並び立てるほどの器だというのでしょうか。
『黒子』 「はい、なんですか?」 『心配しなくても、あんたはここにいるよ』 「え?」 『あんたの居場所は、ずっとここにある』 「…上柿さん」 『たとえ黄瀬がここまで這い上がってきても、誰もあんたを追い出したりしない。あんたがやっとの思いで掴んだ居場所はちゃんとあんたのものだよ』
上柿さんはそういってボクの頭をやさしく撫でた。ああ、だからボクは彼女のことを好きだと思うんです。ちゃんとキミはボクを見てくれる。どんなに眩しいひとたちがいても、傍らにいるボクにもちゃんと気づいてくれるひと。
「上柿さん」 『うん?』
見え隠れする羨望とか嫉妬とか焦燥感が、やっぱり時々は顔を出してボクを苛むけど。やっぱりボクもまだ中学生だから、青峰くんたちのようにと憧れてしまう気持ちがなくなったわけじゃない。シュートだって打ちたいしドリブルだってしたい。だけど、これはしかたのないことだから。ボクの、ボクだけの力。それを必要としてくれる人たちがいる。だから、こんな気持ちは知られてはならないと。絶対に知られてはならないんだと。一番の相棒である青峰くんにも、ボクを見出してくれた赤司くんにも、誰にも。そうやって隠してきた気持ち、隠れるようにしてひっそりと彼らと共にあるボク。
「ありがとうございます」
だけど、それでも、そんなボクをキミは見ていてくれるから、笑ってくれるから。ただそれだけで、こんな配役も悪くないなと、ボクは思ってしまうんですよ。
「大丈夫ですよ。どんな色の新しい光が来たところで、ボクの影は消えないし、それどころか強くなって見せますから」 『うん、あんたならやれるさ、もちろんね』 「それにボクにもようやく下っ端ができるかもってことですよね」 『え?まあ、新入りだからそういうことじゃない?』 「ふふ、楽しみです、いろいろ」 『やめて、その顔やめて。あんたそんなキャラちゃう』 「さて、どう躾けてやりましょうかね」
ようこそ、きみがさいごだ 130118
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