――ごちそうさま!
そう言ってわざわざみんなで揃って微笑むから、わたしも笑顔を送り返す。にぎやかで、あたたかな食事は人知れずわたしたちを幸福にしてくれる。愛情と笑顔あってこその「おいしさ」なのだ。感謝の言葉「ごちそうさま」を自然と口にできるような幸福な食卓は本当にやさしくて、あたたかい。虹色のはにかみは、まるで花のようにかわいらしい。
『みんな朝からよく食べたねぇ』 「だって成長期だしね〜、おいしいと食べちゃう」 「まだ伸びる気っすか!?」 「お前の料理は本当にうめぇからなー、つい食べすぎちまうわー」 「ちょっと大ちゃんなんでこっち見るの!なにその半笑いっ!」
特にたくさん食べた敦と大輝がそんなうれしいことを言うので素直にお礼を言った。そんなわたしにテツヤが「上柿さん、近い将来ボクに毎朝おいしい朝食を作ってくれませんか」とか言うので、ぷんぷんと効果音が付きそうな表情で「何お前は朝から早速上柿を口説いているのだよ!!」とツッコミをいれるので対してわたしは『悪いなテツヤ、わたしの旦那が許してくれないみたい』と返してやったらテツヤはかっ!!って目を開き、反して真太郎は顔を青くした。
「俺を差し置いて何の相談だ?この俺を排すなどなんて命知らずなやつらか」 「うるさいですよ赤司くん、なんですか乗り遅れたくせに偉そうな」 「ふふ、そうか。どうやらお前は本当に俺のこの眠れる両目の餌食になりたいらしい。さて、今日はどうやって征してやるか」 「朝から持病披露ご苦労さまです。あとその胡散臭い両目は永遠に眠らせといてください」
朝から双子は絶好調だね〜と敦がわたし特製デザートを頬張りながらまさにお兄ちゃんらしく双子を微笑ましげに見つめてほわほわと笑むから、わたしは思わずそんな敦の頭を撫でた。皆さん、ここに大きな天使、大天使さまがおわしますよ。
「敦、真太郎、テツヤ、大輝、涼太、さつき、そして八重」
そうして、和やかな雰囲気の中で征十郎は口を開いた。愛想笑いでもなく体裁を取り持つためのものでもない、本当に心からの笑顔で笑う征十郎が、みんなの名前をまるで大切なんだと囁くようにゆっくりと、口にする。
「突然だが、八重が呼んでくれたように、俺も今日からみんなのことを名前で呼ぼうと思うんだ」
突然どうした、とそんな無粋な言葉は誰も口にはしなかった。わたしの横で敦と真太郎、そしてテツヤが少しだけ苦く笑っていた。
『征十郎って、素直っていうか純粋っていうか、ほんとおバカよねぇ』
ああ、きっと幼いあなたが長年抱え続けたその潜在的な孤独は、「ここ」に来てようやく癒し終えたってことでしょう?ほんとにバカでかわいくて、いとしい子だよね。そっとおバカちゃんの頭を撫でてやれば5歳の子どもみたいにうれしそうにはにかむもんだから、この天才児はまったくあざとすぎるぜ!
「でもそれが赤司くんのいいとこですからねぇ」 「おいこら、テツヤ。おバカがいいとこってどういう意味だい?」 「黒ちん、せめてかわいいとこって言ってあげなきゃ可哀想でしょ」 「可哀想扱いするお前もなかなかひどいのだよ」 「つーか、わざわざ宣言すんなよ恥ずかしい」 「きゃー!青峰っちが照れてるー!!」 「ちょっときーちゃん!それどっちかっていうと私のセリフ!!」
「うっせぇ、しねデルモ!」とキレる大輝に「デルモってなんすかモデルですぅ!!男の嫉妬は醜いっすよ!ねー、上柿っちー?」と涼太がウィンクしてくるから手のひらで払って受け取り拒否してやった。涼太はモデル形無しの顔でぼろっぼろ泣き出した。やべ、またいじめてもーた。
「そういえば皆さん、今日何か予定があるんですか?」
それから今度はテツヤが迷惑そうに目を細めながら涼太に視線を向けつつ、そんなことを口にした。
「学校はない上に部活も今日は休みだからな。暇と言えば暇だが」 「俺もかな〜」 「右に同じなのだよ」 「部活ねぇとあんますることねーなそういえば」 「大ちゃんほんとバスケバカ!でもテツくん、私もね?!特に予定ないからねっ」 「そういえば今日は撮影ないっすね〜」 『だよねぇ。普段部活ばっかだしね』
どうやらみんな暇らしい。まったく年頃の男女がここまで浮いた話もなく部活に青春捧げてやがるとか……めっちゃ健全ですな、結構結構。とか思ったけどそういえばわたしも右に同じだったわ。まあ、でもたぶんまだみんなと一緒にいるのが楽しいから、それでいいんだろうな。きっと、ここにいる全員がそれを思っているはず。
「――これからみんなで、バスケをしませんか?」
そうしてはにかむテツヤは、なんだかさっきの征十郎みたいで。本当にかわいい子らだよ、双子は。一瞬だけきょとんとした表情をしたみんなはやがて揃って、燦々と光輝く太陽のような笑顔で大きく大きく笑うんだ。
「よっしゃあ!ナイス提案テツ!さすが俺の相棒だぜぇ!!」 「やったあ!みんな今度こそ負かしてみせるっすからね!!」 「ふふ!きーちゃん、がんばって!」 「えー、せっかくオフなのに結局バスケすんの〜?」 「まあそう言うな、敦。俺は楽しみだよ」 『敦、わたしお弁当作るからさ』 「やる」 「お前はまったく単純なのだよ紫原!!」
――わたしたちのしあわせは、いつだって「ここ」で花開いて、微笑みを浮かべている。
*
私もお弁当作るの手伝う!というさつきの提案を丁重にお断りして、再びみんなのために料理をすることになったわけだけど。やっぱり、しあわせだなって思う。大好きなひとたちがきっと喜んでくれることを想像しながら作ることは。だってそうでなくても食事という行為によって、それは彼らの血となり肉となりエネルギーとなって彼らの身体を巡りめぐっていくのだから。だから、そのお手伝いをできるなんてとても光栄なこと。まあ、わたしだってとりあえずみんなの「おいしい」って笑顔が見られればそれだけで十分に幸福なんだけどね。
『お弁当作って来たぞー』
みんな分の大量のお弁当を作って(わたしここ2日ですごい総量の料理作ってるわ)、後から遅れてバスケットコートのあるわが家近くの公園へ赴くと、征十郎、敦、真太郎チームと、テツヤ、大輝、涼太チームという仲良し組に分かれて3on3のゲームしているところだったらしい。が、やはりというかなるほどというか、無敗王征十郎さんがいるチームが勝ち越しているのだと審判及び得点係のさつきが苦笑いしながら教えてくれたのだった。
「うがああ!赤司むかつくぜっ!!おい、上柿もこっちのチームに入れよ!」 『はあ?いやだよ。つーか、人数合わないじゃん』 「いんだよ別に!3対4でそれでも赤司が勝てるっつーならやってみろっつーんだよ!!」 「ちょっと落ち着いてください青峰くん」 「へぶっ!落ち着かせるのにいちいち平手打ちすんなテツぅ!!」 「え、てか赤司っちたちはそれでもいいんすか!?」
おいこら涼太、なに勝手に話進めてんだコラァ。誰も参戦するなんて一言も言ってないからね、ぶっちゃけわたしめっちゃ嫌だからね。八重さんは料理・雑用担当のしがないマネージャーでございます。ていうか正直、バスケ自体は初心者だけど大輝が誘い込んでくれるくらいにはそれなりに運動神経はいいほうだが、だけどそれにしても男子の中に入っていけるほどじゃない。しかもなにを隠そう、あんたら今全中で連覇している無双・帝光中のレギュラー共だからね、なんか最近すごすぎて「キセキの世代」とか言われ出すくらいの稀代の天才児たちだからね。勘弁してくれよ。
「当たり前だ。俺たちが負ける?まさか!敦と真太郎がいて負けるはずがない」 「いえーい、さすが赤ちん!ぜってー負けねぇかんね!!」 「…無論なのだよ」
おいこら、真太郎照れてやがる場合じゃねーぞ。嫁が死地に送り出されようとしてんのになにピュア発揮してんだおい。
『まだ死にたくねぇよお!!』 「諦めてください上柿さん、みんな既にノリノリです」 『テツヤまでひどいっ』 「ふふ、大丈夫ですよ上柿さん、大丈夫」 『なんも大丈夫じゃないです』 「ボクが、あの化け物共からちゃんと守ってあげますから」 『…ほ?』 「だから心配はいりません。キミはめいっぱいバスケを楽しんでください。ボクがキミを必ず守ってみせます」 『……きゅん』
あらやだ、テツヤさんほんと男前!あーもう、ほんとこういうフォローっていうなんていうか、やさしい言葉を自然と吐くとこ、本当にずるいよね!てかごめん、さつき。また男前テツヤにときめいちゃった。
「…またしてもテツヤめ……!仕方ない、八重は勝利の末に奪い取るか」 「はあ?!なにもう勝った気でいるんだよふざけんな!」 「ふん、なにをバカなことを。俺たちが負けるわけがない」 「うっせぇ!俺が負けるとかあり得ねぇんだよォ!俺に勝てるのは俺だけだ!!」 「かかってきなよ大輝、受けてたとう。何度やったって同じだ、すべてに勝つ俺こそ最強なのだから!」
最強エース「俺に勝てるのは俺だけ!」vs最強キング「すべてに勝つ俺!」の戦争はいかに!
"Home, sweet home" 11 130413
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