※彼らの友情に憧れるお話
話者:「末っ子の俺っす」



俺はみんなと出会えてよかったと心から感謝している。


「あ〜!おいしかったー!」
「お前ひとりで食いすぎだぜ紫原!俺の唐揚げまで奪いやがって!」
「大ちゃんもいっぱい食べたじゃない!」
「ボクのゆで卵もみんな食べてくれてうれしかったです」
「あの量が一気になくなるなどお前らの胃袋はどうなっているのだよ」
「もうまさに戦争だったすよね!」
「さすがにこの戦ばかりは俺も負けたな」
『征十郎の初敗北は大食い戦争とか!』


一通り笑い転げている上柿っちにみんなでお礼を言うと、上柿っちは「お粗末さんでしたー!」と笑顔を返すから、みんなはそんな彼女に対する想いを改めて強めた。俺たちは本当にしあわせっすね、そう思ってつい頬がゆるむ。ああ、俺がこんなに自然に笑えるのは、「家族」みたいなみんながいるこの場所だけなんすよ。


「みんな、今日はありがとう。俺は今まで何事においても負けたことはないし、大きな間違いをしたことも一切なかったと思っている。だがそれでも緑間が危惧していたようにやはり人間なのだから間違えることもあるだろう。紫原が指摘するようにやはりまだまだ足りないところも多々あると思う」


赤司っちが主将らしい威厳ある顔つきで話す。そんなこのひとの何を心配することがあるんだろう。なんでもできて、しかもそれはすべて一級の出来で、自らがそう確言するようになんであろうとすべて勝利者であって、あのひとのいうことには確かに間違いなどなく常に的を射ていた。だから俺は初めはその意味がわからなかった。


「主将として、ひとりの人間として、ひたすらに邁進していく俺をどうかこれからもよろしく頼む」


でも、でもね。しばらく見ていたら分かったっすよ。受け入れてもらって仲良くなってみんなの傍にいるようになって、そうして次第に俺も気づいたんす。ああ、あのひとは確かに何でもできるけれどその反面、本当はとても不器用で頑なで危うくて、本当はさみしいひとなんだなあって。


「――今日は、本当にありがとう」


言葉を選ぶようにゆっくりと感謝の言葉を口にする赤司っちの表情はとてもやさしい。それはさっきの主将らしい顔つきとは違っていたからきっと今の言葉は主将としてではなくひとりの人間として、赤司征十郎個人としての言葉だったんすよね。あーあ、黒子っちが時々赤司っちをバカだバカだと揶揄するけれど本当にそうっすよね。頼まれなくたって俺らはあんたを信じてついていくのに。あんたのその才能と信念を信じて、あんたの導く栄光を目指してこの先も。あんたがたとえ嫌がったってこのひとたちはあんた以外に従う気なんてさらさらないんすよ?


『今回のことをね、発案したのはさつきなんだ』
「そうだったのか、ありがとう桃井」
「ううん!これからもがんばっていこうね赤司くん!」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」


桃っちがはにかむ。


『そんでね、せっかくだから盛大に祝おうって言ったのは涼太だよ』
「そうか、やはりお前か」
「え!どういう意味っすかそれ!?」
「いやほめているんだが、一応」
「一応ってなんすか!!」


一応とかなにそれいらない。


『ふふ、んでね、それならうちでやろうっていったのはわたしでね』
「ありがとう八重、お前の手料理おいしかった」
『いえいえー。そりゃよかった。普通の家庭料理だけど』
「いや。あんなふうに「愛情」のある手料理を食べたのは初めてだったからうれしかったんだ、とても」
『…そう、よかったよ。わたしのでよければいつでも食べさしてあげるからね』
「本当か!」
『おー、まじまじ』


うわー、赤司っちすっげえ頬ゆるんでる〜。本当に上柿っちが好きなんすねぇ。


『んでー、どうやってうちまであんたに気付かれないようにおびき出すかってことで鬼ごっこを提案したのは大輝なんだよねー』
「やはり主犯はお前か青峰、この財布泥棒め」
「う、うるせーな!財布のことは悪かったけどよ!どうやって鬼ごっこに持っていくかは考えてなくて俺なりにひねり出してああなっちまったんだよ!」
「それにしても他のやり方はなかったのか、全く」
「緑間と同じこと言ってんじゃねーよ!!」


あらま、責められて青峰っち半泣きじゃないすかやだー!


『あとね、せっかくだからわたしの手料理が食べたいって言ったのはテツヤでね』
「なるほど、お前のおかげか。さすが黒子」
「ふふ、キミのことなら大体分かりますからね。うれしかったでしょう?」
「ああ、もちろんだ」


あ、なんだか本当に「双子」みたいに分かり合っててほんといいっすね。


「一週間くらいみんなで相談したんだよー!」
「でも計画すんのも楽しかったっすよね!」
「黄瀬くんなんてはしゃぎすぎて何度緑間くんに叩かれたことか」
「つーか俺だけ礼言われるどころか泥棒扱いかよ」
「自業自得なのだよ。財布の件はお前一人の責任だ」
「まあ、俺ら四人はそれぞれ一回は持って逃げ回ってたけどね〜」


それから赤司っちがいつものサディスティックな笑みで青峰っちに文句を言うもんだから青峰っちが再びダメージを受けてた。青峰っちって時々メンタル弱いっすよね!とか思って笑ってたら「てめぇも共犯だろーが黄瀬ェ!!」って殴られた。もーやだー!青峰っちったらほんと乱暴なんすから!!


「うわああん!痛いっすよ青峰っちのバカー!!」
「黄瀬くんやかましいです、ハウス」
「黒子っちひどいっ!」
「黒ちん半ギレ〜」
「さすがテツは俺の味方だな相棒!」
「違います。ボクは愛と誠と正義と、あと上柿さんの味方です」
「きゃ!テツくんかっこいいー!」
「愛と誠と正義って、お前一体何者なのだよ」
「どこのヒーローだどこの」
『うれしいけど愛と誠と正義と同列にあるわたしって何者』


「相棒よりも上柿かテツぅぅ!レッドと張り合えんのブラックのお前だけなんだぞ!!」と青峰っちがなぜかヒーロー戦隊になぞらえるもんだから赤司っちもにやりと笑って「なるほど。主将である俺はリーダーのレッドで、切り札であり我が部のダークホースである黒子がブラックか。なかなか合ってるんじゃないか。だが、そうなると知的サブリーダーポジションのブルーがお前になってしまうな、青峰」とか言うからみんなで「知的とか合わねー!」と笑った。「そうなると初代でいくとイエローの黄瀬くんはカレー好きになってしまいますね」とか黒子っちそれやめて。


「はは!今日は本当に最高に楽しい1日だった、みんなのおかげだ」


そういって笑う赤司っちは本当にあの怖ろしく完璧な天才ではなくて、俺らと同い年の普通の少年だった。ああ、みんなはきっと俺が知らない間もずっとずっと、こんな日を待ち続けていたんだろうなあ。そんなみんなの友情がうらやましい。今までさ、こんな仲のいい友達なんて俺はいなかったから本当にうらやましいっす。だけどそんなみんなの一員になれてやっぱり誇らしくもあって。俺もみんなと出会えてよかった。あんなにもつまんなかった日常が今こんなにも鮮やかに色づいて笑顔がいっぱいになる。この中に迎え入れてもらえて、本当にうれしくてたまらない。


「赤ちん、それほんとー?!」
「赤司、それは本当にお前の本心なんだろうな?」
「ああ、本心だ。今日が終わるのが本当に惜しい、家に帰るのが嫌になるくらい」


ああ、よかった!ふふ!本日の任務すべて大成功だったすね!!


『さてさて、本日の主役の征十郎からも同意を得ましたので!!』
「………え?」


ああ、本当にこんな楽しい日々がずっと続けばいいのに!いつかこんな「家族」ごっこは終わってしまう、いつか俺たちは中学を卒業してそれぞれがバラバラな道に進んでしまう。だけどせめてそれまでは、こんなふうに俺が心から笑える日がこの先も続いていきますように。楽しくてにぎやかな日常がどうかずっと続きますように!赤司っちのきょとんとした表情に俺たちはしてやったりと同じ顔して笑った。


『それではこれより「征十郎おめでとうパーティー」改め「ドッキドキ☆うれしはずかしお泊まり会」のスタートです!!』


ネーミングセンス最悪じゃねーかおい!やったー!テツくんとお泊まりごふぉ!!大丈夫ですか桃井さん、鼻血出てますよ。ええ?!黒子っちクールすぎ!!なんてこっちサイドがあほなこと言ってると、あっちサイドでは驚いたように瞬きを繰り返す赤司っちに緑間っちと紫っちと、上柿っちが穏やかに笑いかけていた。あの三人と、そして上柿っちの友情のあたたかさには本当に見ていて思わず作り笑いじゃない自然な笑みがこぼれてしまう。俺がこんなふうに笑えるのは本当に「ここ」だけなんすよ?みんなは知らないんだろうけど。


『お泊まり会の提案者はね、真太郎と敦だよー!』
「ねー、赤ちんうれしい?」
「聞くまでもないのだよ。本当に今日は、赤司の珍しい表情を何度も拝める興味深い日だ」


――俺はみんなと出会えて友達になれて、そして「家族」みたいな関係になれて、本当にしあわせです。




"Home, sweet home" 7
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