あの二人は双子みたいにそっくりだ。わたしにとにかく触れたがるとことか、変に構ってほしがるとことか、嫌われるのを恐れるように時々見せる不安げな瞳とか。母を恋しがる小さな子どもみたいに、なんだか本当に頼りなさげなところが、とてもかわいくて、とてもいとおしいとわたしは思ったんだ。


『赤司、黒子』


黄瀬も正直そういうところあるけれど、この二人はまたより複雑なんだろうなあと思う。殊に赤司のほうは、それが顕著。最初は触れられることすら、緊張を走らせていたくらいだ。もちろん、無表情を貫くことでうまく隠していたから誰にも気づかれていなかったけれど。


「上柿!」
「上柿さん!」


呼んだのがわたしだと確認した二人は、ぴこーん!と効果音が付きそうななんとも言い難い同じような表情を浮かべて、子どもみたいにすり寄ってきよった。ああ、くそ、かわええなあ双子は。


「緑間はどうしたんだ?」
『ああ、もう怒ってなかったよ』
「じゃあ逃げ切れたということですね」
『ん?まあ、そういうこったね』


そういって誇らしげに笑う黒子に赤司が笑っていた。まさかー。緑間さんはあんたらを捕まえようと思えば捕まえれたよー、ただしなかっただけで。反応を見る限り赤司は分かっていたんだろうけど、やっぱり黒子は気付いてなかったようで勝ち誇っている表情がなんともかわいらしい。


『それより、あんたらだめでしょ、緑間を困らせたら』
「そんなに怒っていたのか、緑間は」
『まあ、ねえ。場合よっては叱り飛ばしていたかもしれないけど』
「そうですか、それはそれは」
『悪ノリも結構だけど、ほどほどにね。あんまり緑間をいじめちゃだめでしょ、あいつ意外と繊細なんだから』


わたしがついそんなことを言うと、なにやら赤司は目をぱちくりと大きく瞬きをして瞠目した。え?なにさ、その表情は。


「もしや、俺は今叱られたのか?」
「…え?」
『はあ?』


ぱちぱちと数回の瞬きを繰り返した赤司が、それからうつむきがちに小さく呟いた言葉にわたしは思わず泣いてしまいそうになった。どうして、どうして、あんたはそんなにも。


「…叱られたのは、生まれて初めてだ」


ああ、あんたは本当に、悲しくてさみしい子だ。


『…赤司』
「…赤司くん」
「そうか、こんなかんじなのか」


「愛情」を知らない、受けたことがないという赤司のさみしさの根源は、きっとそんなところにあるんだろう。あの時、無表情の中で瞳をわずかに翳らせていた赤司の、その言葉を聞いたときわたしはそんなふうに思ったんだ。だから、だからわたしはそんな赤司と、そんな赤司を親しく思うみんなと「家族」みたいに仲良くなりたいと、くだらないことでも楽しく笑い合えて、どうしようもないことでケンカをして、そうしてすぐに仲直りしてまた笑い合える、そんな、そんな「家族」みたいな関係になれたらいいなあって、そう思ったんだ。


『…ふふ、お望みとあらばもっと叱ってあげようか赤司?』
「いや?無意味に叱られたいわけじゃないからな?それにそういう趣味はない」
「どんな趣味ですか、それは」
「はは、俺にもよく分からないがな」
『なんだよ、おい』


いつか、あんたがその愛情への飢えと潜在的な孤独を満たしたとき、きっとそのとき初めてあんたは心から笑うことができるんだろう。せめてその前に、わたしたちがバラバラになることがないように祈るしかできない。いつか、わたしたちは自分の道を選び生きてゆく。そうなったとき、あんたはどんなふうに自分を見つめるんだろうか。


「…上柿」
『ん?なに、赤司?』
「ありがとう」


その言葉に込められた感情がわたしの心をそっと揺らした。バカね、それはわたしではなくて、ずっと心配し見守り続けてきた緑間や紫原たちに向けてしかるべき言葉だよ。


『って、おいこら、何さりげなく抱き着いてきてるのよ赤司』
「お前に触っていると落ち着くんだ」
「あ!ずるいです赤司くん、ボクも」
『おいこら、黒子もか』


前には赤司、背中には黒子がくっついていて、双子によるサンドが完成してしまった。おいおい、こんな場面を黄瀬に見られたらやつも飛び込んでくるじゃねーか。そして双子が案の定返り討ちにして、泣きわめく黄瀬を慰めなきゃならんくなるんだぜ。


「……ん?」
『なんだ、どうしたの赤司』
「…お前、なんか黄瀬のにおいがする」


におい、だと…?おいおい、お前は普段のわたしのにおいが分かるというのですか赤司さん。そうして、便乗して黒子も鼻をスンスン鳴らしてひとのにおいを嗅ぎ出すから本当にどうしようかと思ったわ。やめろ、恥ずかしい。


「確かに、なんか黄瀬くんのにおいがしますね」
『……んー。あ、そういや、あんたらんとこに来る前に黄瀬と遭遇して飛びつかれたんだったわ、たぶんそん時ににおいついたんだろうな』


あいつ、本当にひとに飛びつくくせなんとかしてほしい。180越えの大男を女子の平均身長であるわたしが受け止められると思ってんのかよ。すげえ腰痛いんだけど、本当に。男子の平均身長である赤司と黒子くらいなら、それほど問題ではないんだけども。


「…俺のものにマーキングとはいい度胸だ」
「…黄瀬くんのくせに。駄犬め」
『恐ろしい言葉をひとの耳元でささやかないでくれる、こわい』


そんなわたしに二人はお前に言ったんちゃう!というふうにぎゅうううと力を強めた。なにその無言の主張。なんでそんなところまでシンクロするの、あんたら。やっぱり、双子みたいにそっくりだと思うのは間違いじゃないよね。


『今日はやけに甘えん坊だなあ、二人とも』
「たまにはいいだろう、そんな日があっても」
「そうですそうです、今日はそういう日なんですー」
『かわええのう、あんたらはほんまに』


そうやってつい赤司の頭を撫でてしまったのだけれど、わたしの肩に顔をうずめながら、慣れないことに顔を紅潮させて照れている赤司がいることにわたしは気付かなかった。だけど、そんな赤司に気付いた黒子が背後で小さく「ふふ、」と笑うのは聞こえていた。とてもやさしい、無邪気な声だった。


「本当に、バカですねえキミは」
「…うるさい、黙れ」
「はいはい、すみませんすみません」
「そんなにコロされたいのか、死に急ぐとは哀れなやつめ。灰にしてくれる」
「はいはい、厨二病厨二病」
「クロコロ」


――双子は今日もかわいく元気です。




Re: her motherhood
130227
『だって、あの子たちバカみたいにかわいいんだもの』
「俺もたまにはかわいがってほしいのに、双子ばっかずるいっすー!!!」