※みんなで赤司をお祝いするお話
主催者:『どうも、おかんのわたしです』


『よし!とりあえずこんなんもんでしょ』


あとは他になにか必要なものってあったかな、大方は昨日のうちに準備して確認してたし、大丈夫だとは思うんだけどな。向こうサイドの体力の関係から制限時間は15分くらいが妥当だと判断して設定したから、スタート地点のコンビニからわが家へは徒歩で七分で、あのあと後援三人を見送ったあと、必要なお菓子やジュース類を追加で買ったから、残り時間は5分を切っているところか。


「炭酸三種類と、炭酸じゃないのが二種類!ジュースはこんなものだよね!」
「お菓子は夕飯のあとですから、少しだけしか買いませんでしたね」


買ったジュースとお菓子を並べて確認するが、まあこれだけあれば足りるだろう。足りなかったらまた買い足せばいい話だし。紫原は自分専用のたっぷり買い込んでいたし。……あと3分か。夕飯用の料理を全部温めるにはやはりちょっと足りないか。あとはまあ、みんなの帰りを待てばいいかな。


『そうだな。こんなもんだったら二人だけで十分だったな。黒子はあっちサイド行ってよかったのに』
「勘弁してくださいよ。あんな化け物の群れにか弱いボクを投げ込むとか鬼畜ですか。すぐに捕まって終わりです」
「きゃああ!テツくんかわいいー!!」
『いやいや、えばんなよそこで。さつきはもう何でもいいのか』
「だって事実は事実です。潔く認めるしかないでしょう」
『いやいや、かっこよく言ってるけど、実際内容はかなり情けないこと言ってるからね?』


彼らが規格外なだけですと笑う黒子の表情はなんとも黒い。そんなやつにハート飛ばしているさつきもいかがなもんか。黒子さん、まじ腹黒いっつーか、めちゃくちゃ強かですからね。こう見えて超こわいっすからね。赤司と覇権争い繰り広げられる器っすからね。


『…おっと』
「青峰くんからですか?」
『うむ』


電話か。あれからもうすぐ13分。まあ、迫りくる赤司から4人でよくがんばったほうだろう。ようやく、帰ってくる頃だね。


『はい、もしもし?…ああ、うん………切るの早いなオイ』
「青峰くんはなんて?」
「帰る!!」って言ってすぐ切れた』
「大ちゃん、よっぽど必死だったんだねぇ」
『黄瀬の叫び声が聞こえてたから、ちょうど黄瀬が標的っぽかったけどね』
「さすがに限界なんでしょうね」


14分20秒か。約束の15分越えてから電話くる予定だったが、まあみんながんばったんだからよしとしよう。我々は時間余って寛いでいただけですし。みんなが帰ってきたら精一杯労って甘やかしてやろう。そうして、せめて今日だけはほんものの家族みたいに気兼ねなく、楽しい1日をプレゼントしてあげようじゃないか。明日には友達に戻るわけだが、せめて今日だけは、わたしの願いを叶えてよね。







『さて、諸君。お疲れさまでございました』


わが家の前では屍が4つ転がっている。あらまあ、部活あとだからかなりお疲れですよね。青峰も黄瀬も、緑間も紫原もみんなしんどそうなのに、その4人相手に追いかけていた鬼役の赤司さんはどうしてか未だに余裕そうなんですけど。赤司の底のなさがまじで末恐ろしい。黒子はこの結果を予想していたからこそ、うまく立ち回ったのかもしれない。規格外、まさに。赤司の執念深さというか、意志の強さには本当に脱帽だわ。とはいってもさすがの赤司さんもわずかに疲労の色が見えるな、うまく隠しているだけか。


『はい、赤司。悪かったね、このお財布お返し致します』
「……ああ」


最後の標的であり、また最初にわが家に戻ってきた青峰から受け取っていた財布を丁重に赤司にお返しすると、状況がよく飲み込めないのか困惑した表情でわたしから財布を受け取り、特に異常がないことを確認すると、小さく安堵の表情を見せた。


「……一体、これはどういうことだ?」


眉間に寄ったしわが示すのは果たして困惑か、それとも。


『赤司』
「…なんだ?」


器用なようでいて変なところで不器用な赤司。なんでもできるくせになんでもないことがうまくできない赤司。外面は悲しいくらい完璧なのに内面はびっくりするくらい未熟な赤司。感情をうまく処理できないうまく表現できない赤司。頼ることを知らない愛され慣れていない、小さな子どもみたいな赤司。赤司をよく知らないひとは、傲岸不遜かつ慇懃無礼な、完全無欠の神様の寵児に見えるかもしれない。赤司の表面だけを見たならば。


「鬼ごっこ鬼役ごくろー!赤司!」
「お疲れさまでした、赤司くん」
「さすがっした、赤司っち!」
「お疲れさま、赤司くん!」
「さすがに疲れたのだよ、赤司」
「ここまで全部計画通りだよ、赤ちん」


だけど、だけど、わたしたちは知っている。


『本日、わが家にて赤司の主将就任おめでとうパーティーを催したいと思います!!』
「……え?」


そういって瞬きを繰り返す赤司に、わたしたちは笑った。いかにもきょとんって様子がなんともかわいらしい。あらあら!いつもの威厳はどうしたの、標準装備の余裕も剥がれていますよお兄さん。なんだかこうしてみると、やっぱり赤司もわたしたちと変わらない普通の中学二年の少年なんだな、なんて場違いなことを思ってくすりと笑う。


「あー!もう、うまくいかねぇかと思ったわー!!」
「お疲れさまです、みんな」
「黄瀬ちん、一回捕まりそうになってたもんねぇ」
「だって俺、今日体育あったから荷物多かったし!ていうか、赤司っちの後ろからのプレッシャーが尋常じゃなかったしー!!」
「だからと言って、手ぶらだと赤司にバレる恐れがあるからな」
「ふふ!一斉に鬼ごっこ開始な時点でおかしいけどねー!」


赤司が未だに眉間にしわを寄せて困惑した表情で、他のみんなのやり取りを静かに聞いていた。だけど、わたしは、わたしたちは知っている。これは、赤司のうれしさをうまく表現できないときのくせだ、慣れない感情を噛みしめ、胸いっぱいに喜びを染み渡らせているときのくせなんだよね。ああ、そんなあんただから、そんな不器用で困ったちゃんなかわいいあんただから、みんなはそんなあんたを支え守っていきたいと思っているんだよ。これから色々あると思う。だけど、あんたならやり遂げられる、あんたにはその力がある。


「みんな、……わざわざすまない」


だけど、能力はあっても、あんたはまだまだ足りないとこがたくさんあるな。だから、わたしたちはそんなあんたをこれからも「家族」として愛し、あんたが導く先の未来までずっと、ずっと見守っていこうと思っているんだよ。……ね、征十郎?


「もー!!!赤ちんのおバカー!!」
「まだまだ、教えることはたくさんありそうだな」
「赤司くん、ここは謝るところではないでしょう?…ほら、ね?」


ああ、わたしはそんな不器用なあんたがかわいくて、とてもとてもいとおしい。照れたように頬を染めた赤司を、わたしは思わず勢いよく抱きしめた。あれ?いつもと逆だなあなんて思いながら、うれしそうに笑う赤司の背中をぽんぽんと労うように撫でた。


「――ありがとう、みんな」




"Home, sweet home" 3
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