※みんなでなかよくいっしょに帰るお話
発案者:「さて、誰でしょう?」



私は、八重ちゃんのことが大好き。


『さつきー、お疲れー!今日も色々疲れたねえ』
「お疲れさま!でも、八重ちゃんと一緒だから今日も楽しかったよー!」
『あら、かわいい。あーもう、あんたが青峰の幼馴染とか勿体ねーなあ』


そういってカラカラと笑う八重ちゃんに、私も思わず微笑み返す。のんびりしてて穏やかで、あっさりサバサバしてて、だけど時々強かで、やさしくてあたたかい八重ちゃんが私は大好きなんだ。


「ありがとー!!八重ちゃん大好きー!」
『私もさつき大好きだぜ、嫁にほしいくらい』
「きゃー!もう、八重ちゃんのバカあ!」
『それほどでも?』


だけど、それは赤司くんや大ちゃん、ミドリンやむっくんにきーちゃん、そして私の大好きなテツくんもおんなじ気持ちなんだと思う。みんな、八重ちゃんのことが、私が思うのとおんなじくらい、大好きなんだろうなあ。もーほんとにずるい子なんだから!!


「おーい!!今日みんなで一緒に帰ろうぜー!!!」


なんて、じゃれ合いながら私がつい八重ちゃんに抱き着こうとしたとき、大ちゃんがそんなことを叫んで、部活の後片付けをしていたみんなの注目を集めた。


「久しぶりに、いいですね」
「わああい!テツくんと一緒に帰れるー!!!」
「あ、そうだー!俺コンビニ寄りたいっすー!!」
「仕方ないから付き合ってやるのだよ」
「俺もお菓子買いたいから行く〜」


みんなが賛同の意思を示す中で、八重ちゃんはそっと輪の中から外れて、なにやらメモをしていた赤司くんの元に駆け寄って行った。


『赤司も一緒に帰るでしょ?』
「え?俺もか」
『当たり前でしょ、あんただけハブにはしませんよ』
「そうか、悪いな」
『あ、もしかしてなんか予定でもあんの?』
「いや、……特にはないが」


じゃあ決まりね〜と八重ちゃんが微笑み踵を返そうとしたとき、赤司くんはそっと八重ちゃんの手首を掴んで引き止め、困ったように笑いながら申し訳なさそうにしていた。


「…だが、悪い。今日は監督と話すことがあるから、残念だが俺は、」
「もー!!そんなの待っとくに決まってるでしょ〜!!!赤ちんのおバカ!」
『わ!ちょ、紫原、重い!のしかからないでよ!』
「お前だけ逃げようったって、そうはいかないのだよ赤司」


むっくんが八重ちゃんを後ろから抱きかかえながら、ぷんぷんと憤慨した表情を浮かべて、一方でミドリンが拗ねたような表情で神経質にメガネを指でそっと押し上げていた。ふふ、バカだねえ、みんな。


「…ありがとう。……じゃあ、少し待っていてくれるか?」
「当たり前だしー!!!」
「もちろんなのだよ」
『うん、待ってるねー』


そんなふうに照れたようにお礼を言う赤司くんと笑い合うみんなを見て、つられて私もそっと笑みがこぼれる。ああ、相変わらず仲いいなあ。


「…うまくまとまったみてーだな」
「そうですね、よかったです」
「うまくいきそうっすねー!!!」
「うん、……よかった」


なんだかんだみんな自主練とかして帰るから、いつものメンバー全員で帰れることってあんまなくて、もしかしてとても久しぶり?……ううん、もしかしたら、8人みんなで帰るのって初めてじゃないのかな。なんだかうれしくてくすぐったくて、楽しそうに笑う4人組を見て私は目を細めた。







『大体、赤司あんたは色々と変なとこで遠慮しすぎ、いい加減頼る・頼むことを覚えなさい』
「ああ、すまない。これからは気を付けよう」
『それと誰もちょっとやそっとじゃ怒ったりしないんだから、いちいち申し訳なさそうにせんでよろしい。あんたは他のやつらをなめすぎ』
「悪い、そんなつもりではないんだが、……つい、な」


八重ちゃんに諭されている赤司くんの表情はなぜかとてもうれしそうで、照れたように眉を下げていた。やっぱり、慣れないことで気恥ずかしいんだろうなあ、だけどうれしくてうれしくて、ちょっとだけ感動しているんだろうなあ。そんな赤司くんに気付いているからこそ、八重ちゃんも本気で怒っているわけではなくてうれしい気持ちを隠すように、変に口をとがらせてごまかしているんだろうね。ふふ、本当にあの二人の関係はなんてかわいいのかな。赤司くんの背中をばしりと叩いて一喝する八重ちゃんがひだまりみたいな笑顔を浮かべる、そうしてそれにやわらかい笑みで赤司くんが返す。……赤司くん、本当に表情豊かになったなあ。


「…赤司、なんかすげー変わったよな」
「え!なに大ちゃん、私と同じこと考えてたの!?」
「はあ?知るかよ」
「やだー!大ちゃんとシンクロなんてきもちわるい!!」
「きもちわるいってどういう意味だ!オイコラ、ブス!」
「ぶ、ブスって言ったブスってー!!ひどーい、大ちゃんのガングロ!!!」
「ガ……?!いちいちピーピーうるせぇんだよバァカ!」
「いっ!!」


殴らなくなっていいじゃない大ちゃんのバカ!!もー、本当に昔から乱暴なところ全然変わってないんだら!女の子をぐーで殴るってどういうことなの信じられなぁい!!!


「ダメじゃないですか青峰くん。女の子は丁重に扱うものですよ」
「やー!!テツくんすてきー!!テツくんが男前すぎて、私鼻血噴いちゃいそうだよおおお!!!」
「うっせぇな!こんなん女扱いしろとか無理だっつーの!!」
「こんなんとかなによ大ちゃんのバカ!ちょっとはテツくんのやさしさを見習ってよねー!」
「ああー、ブスがうっせえうっせえ」


ああ!もうまたブスって言ったー!自分だってガングロのくせに!なによー、相変わらず意地悪なんだからもー!


『おいこら、青峰。なにわたしのさつき泣かしてんだてめえ』
「げ!!上柿っ!」
『げ!!ってどう意味よ、こら』
「い!!!いってえええ、ちょ、おま、離せバカ!!!」
「…ダブルリストロックか……相変わらずとても滑らかに技を決めるな、見事だ上柿」
「感心している場合でもないですけどね、赤司くん」


ふっふー!ざまあみろ大ちゃん!私の大好きな八重ちゃんはいつだって私の味方なんだからねー!!痛そうに涙目にしているけど、私助けてあげないからね!


「もー!ちょっとあんたらさっきからなにしてるんすか!さっきの通行人のひとが青峰っちの声に驚いてたっすよ」
『あ、どうもすみません』
「まったくお前は……!場所を考えるのだよ場所を!」
『ごめんなさい、あなた』
「誰があなただ誰が!」
『わたしの旦那さま、緑間』
「誰がお前の旦那だ誰が!!!」
「いつもの茶番劇はいいから!何人かのひとたちが拗ねちゃって面倒だからやめてよー!」


そっちこそ場所を考えてコントやってよ!赤司くんとかがすっごくやきもち妬いた表情浮かべてて本当にめんどうだから!きーちゃんとか飛び込みそうな勢いだし!


「も〜!!!どうでいいけど、さっきからみんなおっせーし!!!!」


え、あれ、まさかのいの一番にぶちキレたのむっくんだったよ!?


「早くコンビニ行きたいんだけどー、俺超お腹減ってんだけどー」
「ご、ごめんねー!紫っちー!!」
「なのにみんなさっきから全然こねーし、俺いい加減イライラしちゃってるんだけどー。黄瀬ちんのおバカ」
「え?!なんで俺だけ?!」
「わりぃな、さつきのせいだわ」
「だ!大ちゃんのばかー!ご、ごめんね、むっくん!」


なによう、私だけのせいだっていうの?責任転嫁にもほどがあるんじゃないの!確かに半分は私のせいかも、しれないけど。で、でも、むっくん怒るとめちゃくちゃ怖いんだから、全部私に責任なすりつけなくてもいいじゃない!普段やさしいのに、空腹時とかは本当にこわいんだからやめてよね!


『ごめんな、紫原。わたしのせいなんだよ。これお詫びにあげるから、これ食べてコンビニまでもう少し耐えてよ』
「……ん、もらう」
『確か、紫原の好きな味だったと思うんだけど』
「…ん、ありがと、上柿ちん」
『いえいえー』


え!?あれ、やっぱりすっかり機嫌直っちゃったよ?!むっくん、あんなに怒っててめちゃくちゃ怖かったのに、もうなんだかすっかりご機嫌になっちゃってる。…なんていうか、むっくんも本当に八重ちゃん好きだよねえ。普段はいつも赤司くんに譲っちゃうんだけど(そのあたり、八重ちゃんの言うとおり長男気質だよね)、まあ、でもむっくんはむっくんなりに八重ちゃんが大好きで、なんだかんだ甘くて弱いんだよね。


「……はは」


ふと、もれ聞こえた小さな笑い声に、みんなは思わず振り返る。一番後ろで、鈍く光る街灯とほのかな月明かりに照らされた赤司くんが、なんだか困ったように目を細めて笑っていた。


「え、なんだよ赤司、いきなり。変なもんでも食ったか?」
「いやいや!青峰っちじゃあるまいに!」
「なんだと黄瀬ェ!!!」
『……赤司?』
「いや、……お前たちといると俺は「たのしい」んだと、改めてそう思ったんだ」


そうやって照れたように、初めての感覚に戸惑うように、うれしそうに笑む赤司くんに私は胸が小さくうずいた。初めて会った時の赤司くんを思い出す。無表情で、冷酷で、感情なんて持ってないんじゃないかってくらい、空っぽな人形みたいなひとだった。チームメイトですら信じていないみたいで、友達ですら頼ることもない、たったひとりでなんでもこなして、自分一人だけを信じて生きているみたいで、なんだかとても寂しいひとだと思っていた。その鋭い瞳が、ただ怖かったんだ。


「俺はお前たちと出会えて、本当にしあわせだ」


だけど、もうそんな赤司くんはどこにもいない。人形なんかじゃない、冷酷なわけがない、感情だってちゃんと持っているんだ。だって、そういって目じりを下げる赤司くんのまなざしは本当にやさしいんだもの。きっと、きっと、今目の前にいる赤司くんが本当の赤司くんなんだろうね。そして、その「ほんとう」を見つけてあげたのは、まぎれもなく、泣きそうなくらいうれしそうに赤司くんの頭を撫でる、あの子だ。


「そんなの、みんな思っているに決まっているじゃないですか」


うん、うん、私もそう思うよ。みんなと友達になれてよかった、こんなふうに八重ちゃんのいう「家族」みたいなあたたかな関係になれて本当によかったよ。きっと、これは本当に「奇跡」みたいな、貴重な出会い。不器用でかわいい赤司くんと、昔と変わらない幼馴染の大ちゃんと、本当にお父さんみたいなみどりんと、お兄ちゃんみたいなむっくんと、騒がしくて楽しいきーちゃんと、大好きな大好きなテツくんと。そして、そんなみんなをつなぐようにそっと傍で笑ってくれる、やさしい八重ちゃんと。私も、出会えてよかったよ。ありがとう、みんな!!!


『さあ、みんな、早くうちへ帰ろう?』


――だから私は、八重ちゃんを含めたみんなが大好きなんです。




"Home, sweet home" 1
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