※あの子に緑間がプロポーズするお話
犯人:「語弊がありすぎるのだよ!ふざけるな!」



最近、正直俺は頭痛と胃痛を患う毎日である。その主な原因というのは、というかむしろそれしか思いつかないのだが、黒子も含めて所謂「キセキ」のやつらの暴走によるものだ。まったくあいつらは本当にどうかしている!主に赤司の暴走・迷走っぷりは本当にひどい。黒子も黒子で、お前だけはまともだと信じていたというのに最近は悪ノリが増えて、赤司や青峰の馬鹿騒ぎに便乗することのほうがむしろ多くなってきているのだよ!


『緑間ー、また頭痛って聞いたけど大丈夫かー?』


そんなことを悩み煩って保健室を訪れたところ、どうやら心配してきてくれたらしい上柿が近寄ってきた。上柿も上柿で時々赤司や黒子に便乗することがある、主に黄瀬を泣かせるために。だが、こいつの悪ノリはまだマシな域ではあるし、それにこいつはこいつで赤司の悪ノリの被害者の一人でもあるのだ。というのも、こいつは別にうちの部に入部することを了承していなかったにもかかわらず赤司に無理やり引っ張ってこられ、嫌々マネージャーにつかされることになったという経緯があるのだよ。


「これが大丈夫そうに見えるのか」
『いや、悪い悪い。緑間って案外デリケートだな』
「あいつらが図太すぎるのだよ!」
『落ち着け、落ち着けって。ほら、わたしの頭痛薬あげるから、市販のだけどね』


だが、上柿も最初は赤司の悪ノリに迷惑していたはずであったのに、どうも最近はそのイライラは一周回って菩薩のようなまなざしで赤司の暴走を見守るのが常態になっているというのが、なんというか、なんとも言い難いところである。諦めたのか達観の域に至ったのかは謎であるが。


『でもまあ、いいんじゃね。みんな楽しそうだし。特に赤司』
「それにしても限度というものがあるのだよ!」


『緑間は真面目なうえにやさしいのなー』ってお前はカラカラと笑うがそういうこっちゃないのだよ!節度というものをあいつらもいい加減わきまえるべきなのだよ。そうでないと、後々困るのはあいつらだぞ。


『まあ、あんたの言いたいことも分かるさ』
「…お前にまで解ってもらえないとなると、いよいよ俺も終わりなのだよ」
『おお、信頼されてんのなわたしって』
「その信頼に応えてほしいところだがな」
『ごめんって』


一度困ったような表情を見せて、それから上柿は目を閉じた。なんとなく、その表情で何に思いをはせているのかは見当がついた。


『あそこまで笑えるようになれたなら、わたしはそれでいいと思うけどね』


それが一体誰のことを指しているのか、それは俺にも分かるのだよ。あいつは、いつも神経をとがらせて、どんな些事一つでもとり零すことのないように、決して負けることのないように。自分だけを信じて、完璧であることに追いすがって、周りはすべて敵だと思い込んでいるかのように、チームメイトと共にいるときですら一瞬でも気を抜かないし、わずかな隙すらも決して見せなかった。まるで、信じることや愛されることを知らない怯えた猫のようだった。その瞳に映っていたのは空虚なまぼろしだった。


「上柿」


いつか、壊れてしまうのではないかと、その緊張の糸が切れてしまったとき、あいつを形作っている何もかもが崩れてしまったとき、やがてあいつは泡のように消えてしまうのではないかと、そんな危うさがあったように俺は思う。


『なによ』


そんなあいつを変えたのは、お前だ。あいつが今「楽しい」という感情を味わうことができているのは、お前のおかげなのだよ、上柿。


「礼を言うのだよ」
『…どういたしましてー。てか、あんたも頭痛薬常備したら?毎回保健室行くの面倒だろ』


お前の存在が、どれほどあいつにとって救いだったか。それをお前はきっと本当の意味で知らない。そして、それは他のやつらにも言えること。見つけてもらったというあいつも、常に傍らにいるあいつも、感謝しているというあいつも、ほめてくれるのがうれしいというあいつも。あいつらの思いをお前は知らない。


「確かにそれはそうだが、ある種逃げ場にしているという理由もあるのだよ」
『あー、嫌になったら逃げだせる場所はほしいわな』
「逃避したくなるのだから仕方がない」
『まあ、うん、でしょうな』


まったくもって、神経すり減らされる毎日なのだよ。


『でも、わたし、確かにあいつらはおバカで鬱陶しいやつらだけど、きらいじゃないよ』
「…まあ、もう少しまともになってほしいところだが」
『はは、なんか緑間、親みたいなこと言うね』
「……手のかかる愚息共で本当に困ったものなのだよ」


上柿はそれから俺に向かって『いつもご苦労さん』といって微笑みかけた。まあ、いつもの心労がたまる日々も、悪くはないのだよ。こうやって、気遣ってくれる相手がいるというのならな。


『うーん、あいつらを家族に当てはめたらあれだね。紫原が長男で、さつきが長女!んで、青峰が次男、赤司が三男で黒子が四男、そんでやっぱ黄瀬は末っ子!』


『上の兄貴たちにいじめられながらなんだかんだ手を引いてもらってる感じがドンピシャじゃん。あ、いや、やっぱペットでも可』と、そういって上柿は笑うが、確かに家族、か。悪くないな。それにしても赤司が三男など、頂点に立つのがデフォである赤司にしてはなかなかおかしな位置にいるような気がする。そういうと、上柿はいつものように笑って、言った。


『赤司ねー。確かにいつも上にいるじゃん?だからむしろ真ん中で甘やかしてあげたいかなーって。あいつ、偶には一番上から下りて自由になればいいのにって思うわけよ。ふは、なんてな』
「……っふ。そうだな」


「赤司が三男で黒子が四男か。このふたりは体格的にも性格的にも、双子でもありなんじゃないか?」と言い返すと、上柿は『ふははは!ドS双子の誕生だな、やばいこわい』と大きく笑うので、俺も思わず笑ってしまった。そうなると、この双子の下の末っ子黄瀬は泣かされる毎日になるのだろうな。あ、いや、むしろそれは現状そのままだったのだよ。双子じゃないが、既にあの二人に泣かされる毎日なのだよ。


「で、お前はどのポジションになるのだよ?」
『え、わたしも当てはめていいの?』
「何をおかしなことを言っている。当たり前なのだよ」
『あー、えー、ありがと、緑間』


今更何を照れることがあるのか。お前はもう俺たちのメンバーのひとりだ。すでに赤司が自分のテリトリーの内にお前を迎え入れたときから、ずっと。あいつは、きらいなやつを自分の領域に招き入れたりはしないのだよ。初めは俺や紫原、青峰に桃井だけだったが、そしてあいつは黒子を見出し、次にお前に惚れ込み、そして最後は黄瀬だった。だからお前なしというのは、ありえないことなのだよ。


『ふむ、緑間がおかんだから、じゃあわたしはおとんでいいか?』
「待て、ちょっと待て」


俺が母親で、お前が父親だと?性別がちょうど真逆だろう!


『え、夫婦いや?じゃあわたしペットになろうか?』
「そういうこっちゃないのだよ!なぜ俺が母親なのだよ!?」
『え、緑間はおかんじゃん』
「親ってそっちだったのか!ふざけるな!」
『え、ごめん』
「…俺が父親で、お前が母親でいいだろう、ふざけたことをぬかすな」


上柿は目を見開き驚きの表情で俺を凝視していた。…なんなのだよ、見すぎなのだよ。なんだか頬が火照るような気がして、俺は眉をひそめた。


『緑間がデレたー。やっべ、貴重』
「…うるさい、デレてなどいない。黙れ」
『わたしもどうせ結婚するなら緑間みたいな旦那がいいわ』
「な!?そういうことを軽々しく言うものではないのだよ!」
『え、本音だけど?』


お前が笑うから、お前があまりにもあっけらかんと笑うから、俺はすっかりと火照ってしまっている顔を隠すように思わず口元を手で覆ったが、そんな俺を見たお前はさらに笑うのだから、きっとこの熱は隠しきれてはいないのだろうと、そんなことを思いながら俺も小さく笑った。


「そうだな。お前が嫁であるならそんな毎日も、悪くない」




すてきな家族になろうね
130119
「プロポーズなど語弊がありすぎるのだよ!あくまでたとえ話だ、ふざけるな!」
『なんかみんながすごい形相でこっち見てくるんだけど、特に赤司と黒子がこわい』