小ねた
2013/08/28 21:41

※もしも「要らない」発言の後に彼女が言い返していたら


「征ちゃんなんか大っ嫌い!!!」

彼女にそう言われた瞬間に思考が停止した。呼吸が止まる。ややあってようやく口を開く。こんなときばかりは己のポーカーフェイスに感謝した。

「……大嫌い?そんなことはどうでもいい。たとえお前に嫌われようとも僕にはもうお前は必要ない」
「……っ征ちゃんは!そんなこと言わない!!」
「いい加減自分に都合よく解釈するのはやめにしなよ。もう、うんざりだ」
「……せ…いちゃん……」

泣いてる、彼女が泣いている。早く慰めて、その涙を拭ってあげなくては。ああ、強く抱き締めて、その髪を、その背をやさしくて撫でたい。………それなのに。

「僕はもうお前なんか必要ないと言ったんだ。残念だよ、本当はもう少し役に立ってくれると思ったんだけどね。――………役立たずは要済みだよ、千加」
「……征ちゃんは」

嫌だ、嫌だ。こんなこと言いたくなどない!欠片とて思ってはいない!!むしろ僕には……俺には何よりも誰よりもきみが必要なのに。……だけど、これ以上は、だめだ。今はまだいいけれど、僕はもっともっと変わっていってしまう。傷付けてしまう、壊してしまうんだ、大切なものを自らで。もっと先の未来の一瞬のために、大切だったすべてを、この手から放さなくてはいけないから。

「……あなた、だれ?」
「……………何を言っているんだ。僕は僕、赤司征十郎だよ」
「だって……征ちゃんは、―――」

――その続きが音になることは、なかった。千加は哀しげに笑って、それから背を向けて僕の前から去っていく。ずっと一緒だった一箇の生命が離れていく、強くつながれていたはずの愛しいその手が今離れてしまう。……ああ、僕はその手を掴めない。

「……赤司くん」

僕を責め抜くテツヤの視線に弱く微笑する。

「テツヤ……僕を決して赦さないでくれ」

いつか断罪の時がくる。その時まで、僕は千加なしに生きていけるだろうか、すべてを前に微笑めるだろうか。――強く憤りに任せて握り締めた自分の手は、ひたすらに空虚だった。

ぼくは大好きだよ、千加


断罪を待つ





征ちゃん、あなたは本当はとてもやさしいひとだと私は思っているよ