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小ねた
2013/08/24 16:36

旦那様からお話をいただき、征十郎様の頭を差し出がましくも撫でて差し上げた日から既に数日。……あれから征十郎様には一切呼ばれておりません。ほとんど毎日お顔を拝見していたのに、あの日以来征十郎様のお姿を見ることも、征十郎様のお声を聞くこともなく、ましてや呼び出されて抱かれるはずもなく。わたくしも一応昼間は学生(とはいっても大学四年で、かつ就活も必要ないので、ゼミと卒論のための図書館通いくらいで週3通えばいい方なのですが)をしておりますので、朝夕に征十郎様から呼ばれない限り、本当にお会いすることはできないのです。

「……もやもやする…」
「何言っているの、今日お会いするんでしょう」
「そうですけども……」

そうこうやっている間に日々は矢のごとく過ぎ、ついに今日例の方とのお食事……いえ、お見合いなのでございます。征十郎様の婚約者様の兄君ですから、つまり一介の赤司家使用人たるわたくしが粗相をしでかすわけにございません。特にわたくしは征十郎様付きの使用人でございますから、わたくしが何か失礼を致しましたらば、征十郎様にもご迷惑をおかけしてしまうかもしれないので、本当に細心の注意が必要だ。暗い顔をする私を母が叱咤してきますが、それどころじゃねーんだよ!

「……もしうまくいったら、妹様とご結婚なさる征十郎様とは義姉弟になってしまうとか……もうなにそれ」
「ちょっと白目剥かないの、アイラインが引けないでしょう」
「なによ、お母さんのバカ」
「バカで結構」

本日何度目のため息か。プロではないかプロ並みのヘアメイク術のある母に装いを整えてもらっておりますが、きれいにしようにも元の素材がいまいちなのだから、そうそう美しくはなれないというのに。それでも、いえだからこそきちんとしなければなりません。ため息をこらえつつ、瞼を閉じて気合いを新たに致します。




「初めまして、今吉翔一と申します。よろしゅう」
「名字なまえと申します。本日はお食事にお誘いいただきましてありがとうございます」

互いに挨拶を致しますが、本日のお相手である今吉様が満足気に笑っていらっしゃいました。そして今吉様は二人で楽しみたいからと、仲介人である旦那様の代理人としてわたくしをここまでエスコートしてくださった使用人頭の田中さんに下がるようにおっしゃいました。田中さんは心得ておりますとばかりに頷くと、わたくしにちらりと目線を向けたあと恭しく一礼して辞しました。高級料亭の一室、目の前には今までわたくしが口にしたことないような高級な懐石料理の品々、そして向かい側に初めてお会いする男性がニコニコと微笑みながらおわす、この状況。

「なまえ……ちゃん、と言うてもよろしいやろか?」
「あ……はい」
「なまえちゃん、お察しの通りお食事〜いうのははっきりゆうと建前で、正直なところこれは実質見合いや」
「……察しております」

わたくしがそう申し上げると、今吉様は少しばかり反応をお見せした。

「なまえちゃんはなんでわざわざご指名くらったか気になっとる、……せやろ?」
「仰る通りです」
「せやな、どっから説明したらええかな。……うちの妹と赤司家のご子息が婚約してんのはご存知やろ?」
「……勿論です」
「正直言うと赤司の坊っちゃんとうちの妹が結婚するは単なる政略結婚、ビジネスや。赤司家と今吉家の、まぁ所謂利害の一致〜ゆうやつや」
「………はい」
「正直今時政略結婚なんか流行らん、でもな伊達に昔から政略結婚が繰り返されてるわけやない。姻戚になるんは下手な契約よりも血と法が縛るわけやから、なんやゆうても有効な政策やからな。都合のいいときだけ手組んで、あかんくなったら縁切りしてしまえばええからな」
「……そうですね」

私を値踏みする視線が、強くなった。

「まあ、別にそんなことはどうでもええ。うちん妹も、おそらくやけど赤司ん坊っちゃんも契約として納得してるはずやからな。恋だの愛だのそんな甘ったるいもんはないはずや」
「……そうなのですか」
「さて、本題やけども、なんでワシが会うたこともあらへんなまえちゃんにわざわざ会いたい言い出した理由」

はっとして俯いていた顔を上げると、瞬間、今吉様と目が合い、そしてすぅと僅かに目を開いた今吉様が今までで一番いい顔で、笑った。

「……ゆうたのは中学の後輩でな、別にワシがわざわざ自称してるわけやないんやけどもな、まあなかなか悪い気はしてへんねんけど、――ワイな、人の嫌がることさせたら右に出るもんはおらんらしいで」

……まっすぐにわたくしを射抜く視線が背筋に寒気を迸りさせました。なんでしょう、この方は征十郎様とはまた違う種類の威圧をなさる……わたくしは震えが止まらず、ただ一心に両手を擦り合わせました。母に選んでもらった上等な着物が今はひどく重荷のように思えました。なんて、……息苦しいのでしょう。

「――なまえちゃん、赤司の女やろ?」

あの、震える赤い髪を撫で付けた手の感触が甦り、やがて溶けるように消えました。わたくしは、ただ静かに目を閉じました。

「アンタを奪い取ったら、あの完璧な赤司も悔しがるかな思うた………ま、とどのつまりただの好奇心や」


赤司くんとメイド 5




方言間違っていたらすみません。お相手は今吉さんでした〜(笑)今吉捏造妹、赤司の婚約者ですすみません。