小ねた
2013/08/19 18:25

「征十郎様」

わたくしは赤司家の優秀な嫡男であらせられる征十郎様付きのメイドでございます。征十郎様は昨年某有名大学を卒業なされ、赤司家の次期後継者としてお父上からご教授されながら日々邁進なされております。父母がこの家の使用人であったご縁から、わたくしは幼い頃より征十郎様とは顔見知りの間柄ではございましたが、今なお、より一層ご立派になられました征十郎様のお側で仕えることができて大変に光栄に思います。

「なまえ、おいで」

征十郎様にやさしく微笑まれて拒めるわけもありません。手招きする征十郎様の方へ近寄ると、征十郎様はわたくしの手を引いて、わたくしを征十郎様のお膝元に乗せました。向かい合う形で大変距離が近く、わたくしが赤面するのを見た征十郎様はとても満足気でございました。

「……いけません、征十郎様」
「いけないかどうかは僕が決めることだ」
「後生でございますから、どうかお手をお離しくださいませ」
「却下。じっとしていろ。これは命令だ」

命令、といわれて逆らえるはずもございません。引き寄せられ、絡めとられ、わたくしが逃げることを、この方は一度とてお許しにはならないのでございます。

「……は、……んっ」
「僕は来年には結婚しなくてはならないらしい。例の女と」
「……ぁ…」
「安心しろ、僕はお前を手放す気はない」

そうして、身動きのとれぬわたくしの首筋にやさしく愛撫を施すこの方には、婚約者がいらっしゃいました。相手の方は由緒正しき家柄の、絵に描いたようにいわゆる良家の美しいお嬢様でございます。教養があり、所作全てに品があり、また大変美しい方で、征十郎様好みの素晴らしい女性です。一般の大学に通う、ただの一使用人であるわたくしとは天と地ほどの差があります。

「おめでとう、ございます」

気まぐれに征十郎様はわたくしを求めます、こうやって捕まえて、決して離してはくれません。やさしくキスをします。強く抱き締めてくださいます。まるで壊れ物を扱うかのように抱いてくださいます。でも、それは、所詮気まぐれでしかないのです。

「そうだな。ありがとう」

にっこりと笑う、あなたの瞳が映すのは、この先あなたが抱くのは、彼女なのでしょう。手放さない、だなんてそんな甘言は信じてはいけない。わたくしは、ただのメイドだから。


赤司くんとメイド