小ねた
2013/08/17 11:08

全ては、お前の甘さが原因なのだ。

「千加」
「……せ、いちゃん?」

不安気に僕を見つめる大好きな……大好きだった女の子を前に僕は笑った。……ああ!もしも時間が巻き戻るなら、こんなことになる前に全てやり直すのに。

――やめろ!やめろやめろやめろ!!やめてくれっ!!……っお願いだからそれだけは……!!

……あー、うるさい。もう、何もかも遅い。

「――もう、お前は必要ない」

そんな、俺ならば一生賭けても言わない言葉を落とせば空気が凍った。せせら笑いを浮かべて見せれば千加の顔が歪み固まる。

――…………うわああああ゛っ!!何故だ何故だ何故だ何故だ!!どうして……!!

「この世は勝利が全てだ。僕はもうそれ以外は、何も要らない」

絶望や慟哭が内にも外にも響いて、ただ笑う。ああ、ああ、生まれてからずっと、命ある限り片時も離れることのなかった手が、今離れてしまう。そんな絶望を前に、今泣きわめいているもうひとりの自分の心の方も、やがて凍りつくだろう。

――……勝利などそんなもの要らない。俺は、俺はただ……千加さえいてくれたら何も……何も要らないのに……っ!!!

踞り、目を耳を塞ぐ自分が、僕はどうしようもなく……憎かった。

――……何も?本気で言っているのか?
――当たり前だ!!勝利なんか何の価値がある!確かに俺は、俺たちは今まで負けたことはない!だがっ!!それが何の役に立った!当たり前だったそれが俺たちの一体何を満たした!そんなものが永遠にこの心を癒してなどくれるものか!
――僕は、……あいつらの敵であることを望む。

ただ、そうこぼした僕を、俺ははっと顔を上げて呆然と眺めた。……全ては、遅すぎた。あの、輝きを取り戻す術はもうどこにもないのだ。

――……まさか…でも、……お前は、
――お前が最後まで、決して決して千加を手放したくなかった気持ちは分かる。痛いほど分かっている。お前は僕だ。お前が痛い苦しい悲しい寂しいつらいと泣き叫ぶその痛みが分からないわけがないだろう。……だからこそ。

そう、全ては、大切な思い出。

――……ちょっと考えれば分かるはずだったんだ。俺ならばこんな未来を予測できなかったはずがない。なのに、お前は目をそらした、考えないようにした。最後まで決断を先伸ばしにした。結局、千加さえも傷付けた。……全て遅すぎたんだ。
――…………いつからだったんだろうな。

青峰がただ好きで突き進んできたものに違和感を抱き出したのは。紫原が俺たちキセキ以外の部員をより一層疎むようになったのは。緑間が精密さにばかりこだわるようになったのは。黄瀬が少しずつ空虚を抱くようになったのは。……黒子が、笑わなくなったのは。

――……そう、そうだ。全て遅すぎた。俺は分かっていたのに、予測できたはずなのに。
――思考を止めるな、未来を見続けろ、考えることをやめたらそこで何もかも終わってしまう。もう二度と、奪わせない。お前は、僕は、……赤司征十郎は敗北に決して殺されない!


この先は、孤独で険しい修羅の道だ。心の支えの彼女もいない。初めて肩を並べた彼らもいない。ただひとり、歩く、歩き続ける。いつか、いつか、全てが終わってもう一度始まるまでは。


――……だから、それまでは。笑え、考えよ、見据えろ、尊大であれ、冷徹であれ、勝利せよ。だから全ての者をそんな僕に従わせろ、跪かせろ、畏敬させよ。誰も、間違っても逆らってはいけない。忘れるな、僕は赤司、赤司征十郎。敗北には殺されない、困難も挫折も絶望も無意味だ、ただ笑い続ける存在だ。全てに勝つ僕は全て正しい。

――……だから、もう、何もかもを求めるのをやめろ。

バスケが、好きだった。始めてしまえば大概のことはできる、できてしまう。他のありゆることも。だから別にバスケにこだわる必要はないし、今も、これからもないだろう。だけど、それでも、特別だった。千加が傍にいてくれた、勝ち続けてきた僕と比肩するみんなとやるバスケはおもしろかったんだ。

――……お前が背負うべき役割を見誤るな、進むべき道を進め、決して後ろを振り返るな。

「僕に逆らう者は親でも殺す」

だから、俺たちがいつか、たどり着く未来のために。僕は愛を捨てよう、恋心を忘れよう、思い出を破り捨てよう、感情を閉ざそう、笑顔も涙も凍りつかせよう。


――それが、僕の「修羅の道」。





すみませんでした!スライディング土下座!!某動画をかなり参考にしてたりなんかしたりします。