小ねた
2013/07/31 23:31

※中三春の決別寸前、とりあえずは「修羅」に合わせて一人称は俺で統一します。


俺が望んでいる、ただひとつのこと。

「……征ちゃん?征ちゃんってば?」
「………あ、すまない。なに?」
「なんか最近ぼぅっとしてない?征ちゃん大丈夫?疲れてるの?」
「いや、違うんだ。大丈夫、大丈夫だから気にしないでくれ」
「……本当に?」

――もしも、この世に神がいるなら。

「ああ、勿論大丈夫だよ」
「……なら、いいけど。何かあったら言ってね、ひとりで抱えないでね」
「うん、ありがとう。千加はやさしいな」
「……やさしくなんか、ない」
「いいや、きみはやさしいよ。少なくとも俺にとっては誰よりも」
「本当?」
「ああ。だからこそ俺はきみに惚れているんだからね、好きだよきみのそういうところ」
「征ちゃんのばか」

はにかむ千加の表情に自然に笑みがこぼれる。不意に溢れ出した想いが止まらなくて、ただひたすらに求める気持ちのままに彼女に手を伸ばす。

「……なあに、征ちゃん」

抱きしめて、左の手を彼女の後頭部に添えてやわらかな髪をそっと撫でる。ああ、好きだ、好きなんだ。……だけど。

「……征ちゃん?」
「……」
「…………大好きだよ征ちゃん、だからずっと、」
「ずっと、傍にいるよ。俺も、俺も大好きだ、一生を賭けて誓うよ」

もしも、もしもこの世に神がいるなら、今浅ましくも罪深い最低な嘘をついたこの俺を、きっと赦しはしないだろう。――ずっと?今頭の中で緻密に巡らす謀が具現化される時、俺は、……僕は一番とりたくなかった方法で、一番愛しているひとを傷つける。

「俺には、誰よりきみが必要だから」

この感触を近いうちに手放さなくてはいけない。初めて、俺は彼女にうそをつく。ああ、どうかこれ以上、時よ、進まないでくれ。変わりたくない、変わってしまいたくなどない。……なかったのに。みんな、全て変わっていく、動いてゆく。そうして、みんな離れて、誰彼構わず不用意に傷つける。俺も、他の四人も。己の自負のため、各々のこころを守るため。そして、最後に、俺は千加さえも。

「……千加」

神様、もしもいるならば、時を止める術を教えてくれ。変わらずにいられる方法を、どうか俺に。どうか。

「征ちゃん」
「……ん?」
「私はね、」

そんなふうに、大好きな彼女を抱きしめながら心の底から祈ったこと。忘れない、忘れられない。

「征ちゃんの考えすべてを信じているよ」

――きみはぼくを待っていてくれますか、信じていてくれますか、赦してくれますか、受け入れてくれますか。

「……だから、あんまり変わらないで」

――こんな罪深いぼくを、変わらず、……愛して、くれますか。

「………俺の想いは、いつか骨になる瞬間さえ、変わることはないよ」

たったひとつの願い事




「修羅」の赤司くんは変わりたくない気持ちでいっぱい、という設定。それでも、僕になることが必要で、だからこそ一番大切な存在さえ手放さなくてはならない。でも苦しい、苦しくてたまらない。変わりたくなんかない、時が止まってほしい。的な心情です。「修羅」では二重人格という完全に切り離した存在ではない体で書いていたし、変えようもない肝の部分なのでそのままで心情捏造です。

この頃はすっかり変わっているはずですが、彼女の前では出来るだけ今まで通りに振る舞い、彼女のほうも征ちゃんさんや他のみんなの変化や不和を分かっていながら何も言わない、そんなつもりで書きました。ギリギリまで葛藤する征ちゃんさんです。それでも、完全な「僕」になるためには、離反は必要で、他の方法は、ない、はずで。

変わることへの恐怖や躊躇を書けるのは捏造しまくった「修羅」赤司くんだからこそですね。茨の道を孤独にひた走る赤司くんにどうか幸あれ!