小ねた
2013/08/26 09:25

※赤司家内に夢主のお部屋が用意された日のお話、小3くらい

「こんにちはー。ママ、今日もおねがいしまーす」
「ただいま」
「ああ、いらっしゃい千加ちゃん。おかえり征十郎、千加ちゃんのお迎えご苦労様」
「ん」
「ママ、これうちのおかあさんからこの前の出張の名古屋みあげ」
「まー、わざわざありがとう」
「いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます」
「あのさ千加、今日はね。きみにプレゼントがあるんだ」
「え、プレゼント?わたしに?」
「うん。……かあさん、いい?」
「はいはい、さっさといってらっしゃいな」
「うん。千加、二階行こう」
「お二階?」

征ちゃんのお家は大層広い。征ちゃんパパと征ちゃんママの趣味がいかにも合わさったような和洋折衷のお家だが、幼い頃からこちらに厄介になり、征ちゃんとまるで姉弟のように育った私ですらよく知らないところも多々あるくらいに広い。お二階には征ちゃんの自室(かなり広い)とほとんど物置のようになっている和室(私が時々隠れる押し入れがある)と隣の空きの洋間には入ったことがあった。基本的に大人の目があまり必要ではなくなって、二人だけで遊ぶようになってからはこの三部屋を使っていた。そして、征ちゃんは私を空きになっていた洋間へと案内してくれたのだが。

「ようこそ、千加」
「……え?」

おかしい、何もかもがおかしい。先週お邪魔した時には確かに、確かに空き部屋だったのに!

「父さんと母さんがきみ専用の部屋を用意してくれたんだよ」

ベッドにクローゼット、学習机に本棚まで用意されているなんて!!立派な立派な自室だ!しかもこの洋間、結構広いから私の家の自室よりも広いかもしれないという……。

「せ、征ちゃん……」
「ああ、心配しなくていいよ。服とかもちゃんとクローゼットの中に入ってるはずだから」
「(パジャマから下着まで!まさに一式……!!)いや……心配ていうかなんていうか!」
「今日からでもここに住めるね、千加?」
「!!!」

……何をおっしゃっているのだろうか。別荘というかなんていうか、別自室をこの年で持つだなんて誰が予想しただろうか。しかも自宅の自室よりも豪華で立派な趣味のいいお部屋を……。こんなのをあっさり用意するなんて、ありがたい以上に恐れ多い!お金持ちの感覚がわからない……!――と混乱する小学生の私であった。

「いや……でも征ちゃんもったいないよぉ…申し訳ないよ……こんないいお部屋……」
「きみのために用意したんだからきみが喜んでくれなきゃ意味がない」
「あ、そりゃ勿論めちゃくちゃうれしいよ!?でも、でもさー……」
「いいんだよ、どうせ空き部屋だったんだから、有効に使わなきゃね」
「でも……ベッドとか」
「ここはきみの家でもあるんだから遠慮はいらないさ。母さんも、きみを娘だと思っていて、だからこそ喜んで用意してくれたんだよ」
「……うん」

ママは女の子もほしかったと少し聞いたことがある。だからこそ、赤の他人である私に対してもいつもやさしくしてくれたのかもしれない。それだけじゃないと思うけれど。

――うちの子の傍にいてあげてね。あの子は何でもできるようでいて、本当はとても不器用だけど、どうかあなただけは信じてあげてほしい。

ママは、征ちゃんの良き理解者だ。そんなママと、穏やかなパパがいるからこそ、征ちゃんは歪むことなくまっすぐに育つことができたのだろうと私は思う。征ちゃんはとても才能溢れる子、でも彼らは決して征ちゃんを特別扱いはしない。でも、そんな征ちゃんと姉弟のように育ち、征ちゃんからどうやら誰より信頼されているらしい私。そんな私を、このお家の人たちはいつも温かく迎えてくれる。第二の大切な家族。

「ありがとう!」

大きすぎるくらいの、たくさんたくさん愛の詰まったこのお家。ここで私は征ちゃんと姉弟のように育った。多忙な両親を恋しく思うきもちもあったし、時には恨めしく思う時もあった。でも、征ちゃんがいつも傍にいてくれた、あたたかく笑って抱きしめてくれた。征ちゃんママも征ちゃんパパも、このお家も、私は征ちゃんと同じくらい大好きなんです。

「きみは、ぼくの家族なんだ」

微笑する征ちゃんに、私は思わず抱きつく。やさしく受け止めてくれた征ちゃんを、私はこれからもずっと信じていくんだと、改めて強く心に誓った。




のちに結婚して、実家だけでなく義実家にまで自室がある千加ちゃん。ママとしては、結婚後同居希望だったけど、征ちゃんさんが断った。

このあと千加ちゃんの両親に色々言い合うが、「娘も同然だし、十中八九息子のお嫁さんになる女の子だから大事にするのは当たり前ようふふ」と言いくるめたママ(笑)征ちゃんさんの大胆さと強い執着心はどちらもママ似。親子揃って計画的すぎる(笑)

両親との関係が公式とずいぶんずれてしまった「修羅」だからこそ書けることを書きたかったです。