小ねた
2013/07/20 14:32

※高校入学直後

中学の制服は白と水色のさわやかな、やさしい色の制服だった。だが、自ら遠くを選んだこの高校の制服は、

「――……黒」

鏡を見ながらネクタイを締める。中学三年間もネクタイだったから今更鏡を見なくても締められるけれど。鏡の中では鬱屈とした気持ちを瞳のうちに隠しもせずに、冷たい顔をした男が自分を睨んでいた。

「……まるで、喪服だ」

今日は、高校の入学式。新たな始まりの日である。それなのに、こんな、最悪な気分なのはきっと自分くらいのものだろう。責めるような瞳がただひとりきりの自分を蔑み続けている。

面倒なことに新入生挨拶を任されたので、少しは早めにひとりきりのマンションを出た。……中学の時は、彼女と一緒に真新しい制服に包まれて、新しい生活を前に少しばかり期待していたというのに、この世界の終わりのような気分と比較してもはや渇いた笑いしかでない。

――ああ、ああ、そうだ、ここには誰も、だれもいない。俺に笑いかけてくれる大好きな彼女も、いない。お菓子食べていいー?と毎日のように聞いてくるあいつもいない。今日こそ勝ってやるのだよと飽きもせず将棋に誘ってくるあいつもいない。キミってバカですねえと唯一俺に刃向うあいつもいない。うわああキレないで赤司っちー!!と凝りもせず俺をイラつかせるあいつもいない。毎日のように次の試合はいつだよ?と急かしてきていたバスケバカだったあいつもいない。本当に仲いいよね!!と俺と彼女の仲を羨ましがるあいつもいない。誰もいない、何の色もない。濁っていいく、薄らいでいく、消えていく。もう、戻らない日々が俺ばかりを苛む。初めて好きになった大好きな女の子も、初めて自分と肩を並べた友人たちも、もう今はいない、いらない。

……間違えるな、僕は、僕は赤司、僕は赤司征十郎。誰にも負けない、何にも負けない。敗北なんかには殺されない、消されない。一番強く、一番正しい。だから、僕は勝ち続けて証明する、俺は正しかったことを。ただそれだけが今の望みだ。俺は何も失ってなどいない、奪われてなどいない、それを証明するために、もう一度すべてをこの手に取り戻すために。俺は、僕は――……ただ勝ち続ける。

それだけをひとり、噛みしめている。



正反対の制服を前に歯噛みする征ちゃんさんですた。某動画を視聴しながらまた飽きもせずに修羅道を書いちゃいました。彼の救いはどこですか、ないんですか。青峰みたいに早く救われてください。

「バスケ部の皆といる時間は好きだったよ」発言がもうつらいよおおおお。