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小ねた
2013/07/08 13:39

征ちゃんが一つ上の学年の我らが帝光中のマドンナ山井さんと付き合っているという噂が流れた。と同時にこの私が川下くんと付き合っているという噂も流れた。

川下くんってだれ。

「川下って誰のこと?」
「ごめん、征ちゃん。誰より私が聞きたい」

怒っているというよりは訝しげな表情で私に件の噂について詰問する征ちゃんを前に苦笑するしかない。いや、本当に知らない。誰だ、川下。

「征ちゃん、山井さんと付き合っているって噂だけど」
「山井って誰だ」
「そっちもか!マドンナじゃん!」

興味ないから分からないんだが、といかにも分からないような表情で首を傾げる。征ちゃんがそういうのならそうなのだろう。とはいえ、私のほうは根も葉もないくだらない噂にすぎないが、征ちゃんのほうは違い、根はあったりする。

「一昨日告白されてたじゃんよ」
「……そうだっけ。どんな女だったか微塵も覚えてないな」

……他の男子が聞いたら卒倒するような発言である。さつきちゃん並みのパーフェクトボディでありながら、雰囲気は清楚可憐、艶やかな黒髪に、新雪のように肌は色白で、ぽってりとした赤いさくらんぼのような唇がたまらなくセクシー!と男子たちに表されているあのマドンナ、ミス帝光をまさかそんな一言で一蹴するとは……征ちゃんもさすがである。

「……噂自体はあり得ないからどうでもいいが、出所が気になるところだな」
「…征ちゃん、本当に付き合ってないの?」
「ん?」
「……あーいや、本当にマドンナが好きなら、………昔の約束も私のことも、べつに、気にしなくて……!」
「それ以上は言わないでくれる?」

俯き顔を隠していたが、少し怒っているらしく耳に残響するような低い声で囁きながら、頤を掴まれ拒否する間もなく視線を合わせられる。底のない赤い瞳に吸い込まれそうだった。

「やはりまだ分かってないようだから言うけどね」
「………うん」
「俺は一度口にしたことは曲げない、何がなんでも実現してみせる」
「…でも」
「そこにはちゃんと気持ちも伴っているよ。今も昔も、俺はきみしか見えない。きみだけがずっと、ずっとほしくてたまらないんだよ」

さわやかな初夏の風が吹き抜ける。先ほどの苛立ちはどこへいったのか、今や穏やかに愛を語るその表情があんまりやさしいから、私はどうしようもなく、征ちゃんだけを見つめてしまう。変わらないでね、これからもずっと私を見つめていてね、私を置いていかないでね。生涯、願いは尽きないのだろう。

「…っ征ちゃん!」
「好きだ、今までもこれからもずっと」

思わず抱きついて、昔と変わらぬやさしいにおいに安堵する。どうしてよく知っている香りなのに、こんなにも胸が苦しいのか。どうして切なさはいとしさと共にあるのか。好きなんだ、このひとが。征ちゃんの手のひらがゆっくりと私の後頭部を滑る。心地よさに目を閉じた。

――何があっても、逃がさない。

昔と同じように抱き合いながら、お互い同じことを思っていたことは、お互い知らない。