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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



小ねた
2013/07/05 19:50

※モブキャラの女の子に対して征ちゃんさんがひどい


目の前にいる名前も知らない女の子は滑稽にも自信満々な面で、この俺に対し「私と付き合って?」などと冗談にもならない失笑ものの告白をしてきた。だから蔑みそうになるのをなんとか堪えて丁重にお断りしたというのに。

「よりによって千加のことを引き合いに出すなんて。自ら地雷を踏むなんて愚かにも程があるな、きみの底が知れるよ」

普段は当たり障りのないように女子に対して振る舞っているが、今はそれも必要ないので止めどない嫌悪を露呈させ、軽蔑するように睨めば、俺の変わりように一瞬驚愕したかと思えばすぐに怯えたように目を見張っていた。ああ、ほんと、なにも知らないくせに分かったような気になっているこういう女が一番イライラする。

「大体、千加よりも自分のほうが俺に相応しいなどと何を根拠に勘違いしたのか甚だ疑問だ」
「…だ、って私のほうが……!」
「まさかかわいいだなんて言うつもりじゃないだろうな」
「……ひっ!」
「世間一般がお前をどのように評価しているかは知らないが俺の主観からすれば、よりにもよって俺の好きな女の子を槍玉に挙げ、しかも俺の目の前で彼女を罵倒するような人間にかわいいどころか微塵の好ましさすら抱けないな」
「……あ……ひ、」
「少なくとも性格は千加と比べるのも烏滸がましいくらいに劣悪だな、そんな女と付き合うだなんて何の罰ゲームだ、謹んでお断りさせてもらう」

頼むから俺に下手な幻想を抱くのはやめてほしい。完璧?人付き合いまで万人に完璧なわけがないだろうに、何を期待していたのか。俺はただ数少ない友人がいて、そしてたった一人の女の子を前に日々四苦八苦しているただの普通の男にすぎないのに。相応しいとか相応しくないだとか、一体何度言われたことだろう。どうして他人の尺度なんかで、俺ばかり何かを強いられなければならないのだろう。俺のせいで好きな女の子まで傷付けてしまわなければならないんだろう。なんで、俺ばかり自由に生きられないのか。イライラ、する。

「…あ、っあの子なんかよりあたしのほうが赤司くんが好きなのに!!どうしてわかってくれないの!?」
「――どうして?」

そんなことは、こちらのセリフだ。

「俺は彼女が好きだ。何より周知の事実で、君にも再三断ったはずだろう、何度言えば分かるんだ。それをどうして理解できない」
「な、……だ、って!」
「それに今、君は千加よりも自分のほうが、と口にしたがそんなことはあり得ない」
「は?!そんなのわかんな……!」
「――…この俺に愛されるということがどういうことか教えてやろうか」

そのまま埒があかないので立ち去るつもりだったが、仕方ないので振り返り再度睨み付ければやはり竦み上がる女にため息が漏れる。お前こそ、何も、知らないくせに。

――俺に愛されるということは一生涯どこにも逃げられないということ。その目も耳も鼻も唇も髪も手のひらも指先も胸も足も心臓も声も視線も、愛だろうが命だろうが、すべて俺に捧げるということだ。俺以外に目移りすることは絶対に許さない。もしもそんなことがあれば何をしでかすかわからない。一生縛られ、一生傍に置かれるということ。一生、盲目にされるという重圧、執着、依存、狂気を、受け入れ理解できなければ到底、歪みきった俺の隣には立てない。

「……分かった?」

そんなことを具体的に語れば、目の前の女は壊れた機械のように何度も、何度も縦に首を振った。その子の掴み上げていた手首を離すと、涙目の状態でずるずると崩れ落ちた。……やりすぎたか。あまりに怯えているので多少なりとも罪悪感が湧くけれど、どうしようもないと無理やり納得させて、すっかり矜持を剥ぎ取られた哀れな女の子を最後にちらりと一瞥し、何を言うわけでもなくその場を後にした。

――ああ、やはり、誰にも理解はされないことなんだろう。ひとつ、ため息を溢す。

自分の歪みに自覚はある。あるにはあるが、だがどうにもできないまま、自覚した上でここまで育ってしまった。我ながらすっかり病んだ思考だ、と他人事のように嘆息するしかできない。

「……千加だけだ」

同じように千加も歪んでいるのだろう。やはりこの狂気を受け入れる時点で、彼女も多少なりとも歪んでいる。それがうれしくないわけじゃない。むしろ、好都合だと、思う。

「…いやだな」

彼女以外からは受け入れられないと悟った瞬間、彼女以外を自分自身すっかり受け入れられなくなってしまった。一途といえば聞こえはいいが、ある意味潔癖なのだろうな。さっきの女の手首に触れた左手を抗いようのない嫌悪と共に水道水で洗い流そうとする、こんな自分はやはり。

――ああ、早く彼女の元に帰りたい。触れたい。


こうやって今日も俺は、彼女への執着を強めていく。




赤司くんの歪みについて。赤司くんは人一倍やっぱりいろんな柵があるんだろうな、という想像。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、これだけでもモテるだろうに慇懃な性格で人望も厚く、さらにはお金持ちで、決して道楽息子でもなくて将来を約束されているも同然で、とか何の冗談だよってレベルの神様の寵児。そりゃ人は群がるだろうなーっていう。友人は慎重に選んでそうだしとか考えたら、恋人も慎重すぎるくらい慎重だろうなという想像を明文化しました。