小ねた
2013/07/02 16:53
「苗字さんは赤司くんのこと、ちゃんと好きですか」
自分で口にした問いかけであったのに、それは質問というよりももはや確認に近かった。僅かに反応を見せた彼女を見つめる。一部の隙もないほどに、彼女は笑った。僕の知らない、笑い方。
「好きですよもちろん!大好きなんです!!」
その無邪気さも、僕は知らない。僕のよく知っている彼女と、今目の前で笑う彼女はまさしく別人と呼ぶにふさわしいのではという気さえした。――ふと、ある小説の一文を思い出し、戦慄した。
「ねぇ、なまえちゃん」
「……なんですか、黒子くん」
頑ななまでに、隙はない。
「ボクはね、いつでもキミのおともだちで、味方ですから」
――虚構を愛するきみ。虚構にすがるきみ。虚構を憎むきみ。虚構でかたちを保つきみ。
「……うふふ、変な黒子くん!!」
にっこりと微笑む様は野に咲くなずなが如くか、あるいはあの白百合か。
「苗字」
「あ、はい!赤司くん」
「桃井が呼んでいた。マネージャーで相談することがあるらしいから急いで行ってこい」
「分かりました。ありがとう、赤司くん」
いいからさっさと行け、と赤司くんが幾分辛辣に対応したが、苗字さんは特に気にするでもなく、にこやかにはーい!と返事をして去っていった。そんな彼女を数秒視線で追いかけたあと、赤司くんはボクのほうへと振り返り、いつも以上に鋭い視線をぶつけてきた。
「あまり、踏み込むな」
「さて何がでしょう」
「黒子」
「うるさいです、ボクと彼女は昔馴染みなんです。キミには関係のないことです」
「……」
ああ、どうしよう。赤司くん、怒っています。
「アレ、俺のだから」
なんて、おもしろいのだろう。強すぎる独占欲も、所有欲も。度がすぎるのも考えものですね。視線だけで殺されそうだ。
「…はいはい、わかってますよ」
いつまでか、は聞かないでおいてあげましょう。
ある一文「彼女を生かしたのは空想です。」――少女地獄 夢野久作著
姫草ユリ子嬢が大好きです。