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「#幼馴染」のBL小説を読む
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小ねた
2013/07/01 21:19

※中学の卒業式

――あんなに楽しかった中学生活の卒業式は、とてもさみしいものだった。

「……征ちゃん」

いつの日も一緒に登校して一緒に下校して。晴れの日は、時にみんなとにぎやかに。曇りの日は、ふたり穏やかに。雨の日は、傘をと共にしとやかに。みんなと一緒の下校はとても楽しくて好きだったな。雨の日は傘をさすから、隣を歩く征ちゃんと少しだけ距離ができて嫌だったな。

茜さす夕暮れに包まれる征ちゃんはとてもきれいだったな。でも夜空に輝く星座をふたりなぞりながら歩く帰り道もとても楽しかった。……それも、中三の春までだったけど。

「……もう、それもないのかなあ」

目を閉じて輝かしい思い出を振りかえる。あまりにたくさんありすぎて、全部が全部をたどれない。征ちゃんは、いつも傍にいてくれた。でも、もうそれもきっと終わりなのだ。今年の春、生まれたときから文字通りずっと一緒だった私たちは、ついに決別してしまった。その上、私たちは今日この日中学を卒業してしまう。もう近くにすらいられない。

それなりに交友のあった友人たちに二言三言挨拶をした後、にぎやかな廊下を通り抜け、下足箱からローファーを出した。もう、最後。最後なのだ。

――だけど、もしもバスケを続けていたら、みんなとはまた会えるのかな。

そう考えて、やめた。


さようなら、私の青春。小さくどうしようもない言葉を呟いて、懐かしの学び舎を後にした。恨めしいほどの晴天だった卒業式、私はひとり、帰路に着いた。





「赤ちん」

懐かしの学び舎は、みんなと、そして誰よりも愛しい彼女との思い出に満ちている。

「ああ」

今日この学び舎ともお別れ。そしてもう1週間もすれば、生まれ育ったあの街ともお別れ。

「赤ちんはいつ東京を発つの」
「来週末だよ。お前はいつ秋田に?」
「俺も〜」
「そうか」
「あのさー」
「千加のことか」
「……お別れ、しないの?」
「…お前も別に俺に気を使う必要はないぞ」
「赤ちんが話せないのに、俺が話せるわけないじゃん」

思わず苦笑する。ああ、みんなは俺に気を使ってくれている。知っていたし、解ってはいたが。それにしても、律儀な友人たちである。そして、頑ななのは俺も千加も同じなのだろう。

「これが、今生の別れではないから」
「そうだね〜。赤ちんが伊藤ちんを本気で手放すわけないもん」
「はは。どうかな?」
「じゃあ、俺がもらってもいいわけ?」
「覚悟があるならば、な」
「やだよ。俺、崎ちんみてーになりたくないし」
「ふ、そうか。それはそれで残念だな」

いろいろなことが、あったな。

「…赤ちん」
「……ああ」
「あんま、無理しないでよね。赤ちん、伊藤ちんがいないとだめなんだから」
「ふ、分かっているとも。身を以て、な」
「………意地張るのも限界なんじゃない?」
「…そうだな。だが……まだ、だめなんだ。せめて、夏、までは」
「赤ちんが、一体何を知ってて、一体何を考えてんのか、知んないけどさー」
「…ああ」
「でも、それでも俺は赤ちんの味方だから」
「ふふ、そうか、ありがとう」
「伊藤ちんは黒ちんが味方してくれるだろうから、大丈夫だと思うよ」
「そうだね。あいつがいるから、あまり心配はしてないよ」
「俺が心配なのは、赤ちんのほうだし。……あんまり変わらないでよね」

それはできない相談だな。呟いた言葉には意味などはない。

「ありがとう。――敦」
「……ばーか」
「また、夏に会おう」

バスケをしていれば、みんなに、また会える。だから、寂しくなどない。大丈夫、僕は遠く離れた地でもきっとうまくやるさ。僕の言うことは絶対なんだから、心配なんかいらないだろう?

もう戻らない楽しい日々、いとおしい彼女。それでも、僕はまだ進むことを諦めない。いつか、いつか、いつか必ず、また会えることを信じて、俺は最後の帰り道でひとり、懐かしい日々を思い出し目を細めた。