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小ねた
2013/06/15 16:48

ずっと探しているひとがいた。ずっと会いたいひとがいた。求めてやまない、いとおしいひとが。

「離してください」
「それはできない。離したら、きみは僕から逃げるだろう」

返された沈黙に歯噛みしながら、どうすればいいのかわからず、ただ苦悶の表情を浮かべる彼女を見つめていた。もしも、出会わなければこんなにも苦しい思いなど知らずにすんだのだろうか。会いたい気持ちに焦がされることもなく、受け入れてもらえない苦しさも、もう二度と取り戻せない愛に悲しむことも、きっと知らずに済んだのに。僕はこんなにもきみを愛しているのに。どれほどいかないでほしいと願っているか。だから僕は、傘を手放して土砂降りのような雨に濡れることも厭わずに、きみをただ抱きよせるのに。

「離して、お願い。離して」
「行かないでくれ。僕を独りに、どうかしないでくれ」

真逆のことを口にするふたりの唇が触れ合っていたのは、そんなに昔のことでもないのに、今はもうひどく遠いような心持がした。きみが、遠くなる。離れていってしまう。僕を置いて、僕とは違う幸福に向かって歩いていってしまう。

「もう、愛せないの」

こんなふうに傷ついてしまうのならば、出会わなければよかった。もう二度と取り戻せない特別を前に、僕は頬を濡らして、縋りつくようにきみを抱きしめることしかできなった。

「 然様ならば、 」

時が戻るのならあの頃のしあわせのふたりにかえりたい、



BGM「最後の雨」