小ねた
2013/06/09 09:50
その女は、俺が"処理"できなかった生涯唯一の人間である。
「真」
女は一つ年上で、父方の親戚筋だった。近所にも住んでいたので、幼なじみでもあった。
「なに笑ってるの」
「笑ってねぇよ死ね」
「あら。いつからそんな子になったのかなマコちゃん」
「元からだバァカ、触んな」
「えー?」
そんな子になった?お前に言われたくはない。お前にだけは。にこりと微笑する様は聖母のように優雅で神聖だのに、しかしそれがとんでもない意味を孕んでいることを知っている。嫌な、女。美しいのに醜く、謙虚に見えて傲慢、ある種潔癖なくせに淫乱で、ただ一つをほしいために幾多の無情を食い荒らし、飢餓に陥りながらなんとか生きている可哀想な女。
「あいされたい」
「……」
「あいされたい」
「……うるせぇ」
「あいされたいよ、マコちゃん」
泣き崩れるのがお得意のお遊びで、そうやって男をオトすのが趣味、いや日課のような女だった。
「お前、今吉サンに前擦り寄ってたろーが」
「うん」
「あの人と穴兄弟になりたくねぇよ」
「真はいつもそう」
「いいから退け、クソビッチ」
「わたしは、ただ」
あいされたいだけなのに
それを施されてぇのは俺じゃねぇだろ。俺、なんかじゃ。
「婚約者くんはわたしをあいしてくれるかな」
それも少し怪しい。お前のいう"あい"とやらは、あの眼鏡の妖怪からしか手に入れられないし、あいつはそんな慈悲あることはしない。何より、俺がこの女をもて余していることを知っているあいつがそんなオヤサシイことするわけもねぇ。
「今吉くん、わたしと駆け落ちしてくれないんだって」
「だって、あいつお前をあいしてねぇし」
「あいされたいよ、真」
「諦めろよ」
俺だけが、お前をあいしてやれるのにな。
婚約者くんはお金持ちの御曹司。赤司くんはその条件を満たすわけですが。今吉、花宮、赤司と末恐ろしい司令塔どもがひとりの女を互いにもて余している、とか。