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小ねた
2013/06/02 23:45

わたしは、あの子は本当は寂しいんじゃないかと思ってた。

「征十郎〜」

後ろから肩に腕を回して抱きつけば、一瞬だけ震える肩。こっちを窺う揺れるような瞳とか。控えめな会話、一歩引いたようなふるまい。いつも、いつも、深く踏み込まれることを拒んでいた。どうしていいか解らず、どうしようもなく不安で、相手から拒絶されるのを怖がるようで。

「…八重?」

まるで、人慣れしてない野良猫みたいで。

「征十郎はいいにおいだな〜」
「そうかな?たまに言われるけどそんなもんか?」
「わたし以外にも言うひとがいるのかあ〜、へ〜」
「はは、………やきもち?」
「まさかぁ」

なんだ、相変わらずつれないな八重は。と、口を尖らせる征十郎は思いの外かわいらしかった。わしゃわしゃと髪を撫でくり回したら、やめろ!と怒られた。

「…べつに、他意はないよ」
「別にわたしは気にしてないけども?」
「………ばか、八重のばか」

かわいいかわいいと口に出したら、うれしくない!とまた拗ねられる。なにをばかな。かわいいさ、あんたはとてもかわいい。ただ、人に慣れてくれたらいいのに。少しずつ人を信じられるようになったらいいのに。信頼する人や帰る場所、たったひとりでさ迷うあんたの心のよりどころが、いつか見つかればいいのに。そう、ずっと祈ってたんだよ。

「今日うち来る?ご飯、一緒に食べようよ」

やわらかい笑顔が本当にかわいくて、そしてとてもいとおしい。

「行く!」


かわいい野良猫を手懐けてしまったわたしのはなし。





時間軸はご想像にお任せ、ふたりの関係もご想像にお任せ。ご自由に解釈してやってくらはい。