小ねた
2013/06/14 02:52
「せ、せいちゃんが王子さま!?」
「……うん」
「ふわあ、じゃあ学芸会がたのしみだぁ。せいちゃんが王子さま役なんてにあうにきまってるもん」
「…………ぼくは心底やりたくないよ」
「え?なんで?」
「なんでって、もちろんお姫さまが千加じゃないからだからよ!なんでそのへんの女の子相手にそんなめんどうなことしなくちゃならないんだ!大体お姫さま役やりたい子が多すぎて結局なぜか5人もお姫さまがいるなんてまったくわけがわからない!!」
「…せいちゃん、よく一息でいえたね……」
「あぁ……ぼく、いやだよ」
「わたしはお姫さまにあぶれたから、もりのようせい役なんだよねー。たのしみー」
「大体なんでお姫さまものなんだ……やっぱりお姫さま役やりたい子多すぎて5人もいるし」
「王子さまはせいちゃんだけだよね(お姫さま役の女の子たちの元締めのじゅりあちゃんがにらみきかしてたから:じゅりあちゃんはせいちゃんがすきらしい)」
「……学芸会なんて、潰す」
「せ、せいちゃん、おちついて」
学芸会当日、潰すなんて物騒なことをいった征ちゃんであったが、およそ園児とは思えないくらい完璧に台本通りに(ただし多少は棒読み)こなしていたが、最後の最後に、とんでもないことをやらかすのであった。
「ぼくのお姫さま、ぼくと結婚してください」
5歳児らしからぬ滑らかな発音で、たくさんの保護者たちが見守る中で予定にはないプロポーズを満面の笑みでかました相手は5人のお姫さまではなく、森の妖精C役の女の子であった。
「ええええっ!ちょ、えっ、は!?わたし、ようせいさんだよ?!」
「ぼくが愛しているのはあなたです。どうかぼくの求婚を受けていただけますか、ぼくのお姫さま」
「…せ……王子さまェ……」
王子がまさかのお姫さまたちを放り投げての森の妖精への予想外の求婚は伝説になりました。そうして、いろいろなんやかんや乗り越えたふたりは生涯幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし(強制終了)
*
「そういえば、そんなことあったな」
「私の人生最大の恥ずかしい黒歴史ですよ…」
「先生や他の園児たちにはあとでとやかく言われたが、うちの母さんなんかはグッジョブ息子よ!って親指立てて喜んでたけどね」
「征ちゃんのせいでお姫さま役の子達からあとでさんざん嫌み言われたよ……」
「ああ、僕がこっそりやり返したから大丈夫だよ」
「目合っただけでじゅりあちゃんが泣くようになったのは征ちゃんのせいか!!」
その日のホームビデオは赤司家のお気に入り。征ちゃんママがたまに取り出して来て、赤面する千加ちゃんを尻目に親子揃ってどや顔で見るのが恒例。征ちゃんパパはそんな光景にとりあえず笑っとく。千加ちゃんが嫁じゃないといやな征ちゃんママは、征ちゃんさんが万が一別の女性を結婚相手に選んだ場合、息子を勘当しそうなレベル。息子よりも千加ちゃんがかわいいのもあるけど、ママは息子をしあわせにできるのは千加ちゃんしかいないと信じているため。