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小ねた
2013/05/14 03:32

「赤司くん」

周囲に誰もいないのを見計らい、茜さす廊下で寂々たる空気の中で、私は虚しく音を震わす。ゆっくりと彼が振り返る。視線に宿るは、徹頭徹尾の無関心。それでも私は泣かなかった。

「あなたが、好きです」

瞬間、漂う嫌悪と軽蔑に少し折れそうになるけど、撤回する気は更々ない。なじられることは、元より覚悟の上だ。

「ありがとう、だが俺は」
「うん、ありがとう。ごめんなさい」

続きを言う前に封じ込めれば、ただただ怪訝そうに目を眇めた。だめだ、まだ泣くな私。

「赤司くんが、心から大切にしてる子がいるのはわかってました。でも、それでも伝えておきたかった」
「……」
「私は、あの子だけを一途に想う、そんな赤司くんを好きになったんです」

とても、とても素敵だと思った。あんなふうに、誰かを想えるなんて。ましてやまだ私たちは中学生なわけで、まだまだ将来のことなんて分からないし、未熟なところも多く、繊細で多感なんだろうと思う。そんな中でまるで宝石みたいに、私にはふたりがきらきら光って見えたんです。ほとんど憧れ故の恋だった。

「勝手に気持ちを押し付けてごめんね」

これは、強がりだ。大丈夫、私は大丈夫。ひとつ、笑ってみせれば、困惑と驚きの表情で赤司くんが固まっていた。もう、視線の中には嫌悪も軽蔑もなかった。

「あなたが大好きなあの子と、末永くお幸せに」

あなたに出会えてよかった、あなたを好きになれてよかった。身を裂くくらい、こんなにも私の好きなひとに想われる彼女が、悔しくも羨ましい。だから、どうか幸せでいてほしい。ずっと、ずっと。私が願っても手に入らなかったその幸せを、どうか大切にしてほしいです。

「待って」

そろそろ涙腺が限界だったため、踵を返しそうそうに立ち去ろうとするが、何故か赤司くんに引き留められてそれも叶わない。

「……何でしょう」
「ありがとう」
「…それは私のセリフです、赤司くん」
「俺にはもう大切な子がいるから想いを返すことは絶対にできないが、だけど」
「……」
「好きになってくれて、ありがとう」

私は、ただ幸せならそれでよかった。私の好きなひとが、好きなひとと幸せに笑っていてくれるなら。それで、よかったんです。

「きみも、どうか幸せに」

そうやって、やわらかく微笑んでくれた、そのまなざしだけで。

「ありがとう」

今の私は、幸せなんです。