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小ねた
2013/05/01 23:27

※長男(8)の名前に関するお話
※捏造がひどいです


「自分の名前について?」
「うん。学校で自分のなまえについて作文を書くんだって。だから由来をきいてこいって先生が」
「ああ、そういえば僕も小学生の頃にやらされた記憶があるな」
「おれのなまえを名付けたのは、パパってきいたけど」
「そうよー、パパが既に決めてあるって言ってねー。ママは清一郎の名付けについてはノータッチだったわ」
「……ああ、そうだったっけ。あんまり覚えていないな」
「よく言うわ!ほんの8年前でしょ!」
「覚えていないものは覚えていない」
「…………おれだって、パパでなくママに名付けてほしかったよ。余計なことを」
「あああ!清一郎、ちがう!ちがうのよー!」
「上等だ、クソガキ。……千加、僕は少し出てくるよ」
「もう!征ちゃんのバカ!!大人気なさす……もう!本当にどっか行くとか!」
「……ママ」

私のエプロンの裾をぎゅうっと掴む、清一郎の手はとても震えていた。

「パパは、おれがきらいなんだろう」
「…バカね、そんなわけないでしょう」
「そんなこと、ある。伊織や花に対するパパの態度をみていればわかる」
「……清一郎、あのね」
「ママ、おれはママが大好きだ。だから、きっとパパは余計におれがわずらわしくてしかたがないのだろう」

わずか8歳のこの子は、やはり征ちゃんに似てとても聡明だ。大人顔負けなほどにひとの感情の機微を仔細に読み解く、読みとってしまう。かつての征ちゃんのように、既にミニバスで主力のPGとしてその才能を遺憾なく発揮しているだけのことはあるのだ。ああ、やっぱり、今改めて親の立場になって思う。あの頃の征ちゃんも、征ちゃんに似すぎるくらい似ているこの子も、本当に頭が良すぎるんだ。いつだってひとの感情を推し量っているのでしょう、悪意も好意もすべて。

「あのね、清一郎。パパは本当に清一郎を愛しているのよ」
「……そうかな」
「そうなの!……あなたの名前はパパが名付けたって言ったよね。ママはそれに反対はしなかった、何故だかわかる?」
「……由来をきいて、納得したから?」
「そう、さすがね。清一郎、パパは本当にあなたを大切に思ってる」
「……」
「だからね、パパの言い訳、聞いてあげてくれる?」

そうして私にしがみついていた清一郎を抱き上げた征ちゃんは、拗ねたような表情で私を見つめるのだった。

「言い訳とはなんだ、言い訳とは。ひどいな、千加は」
「よく言うわ!大人気ないのよ、いちいち」
「うん、それはちょっと反省」

そうして笑う征ちゃんに私も笑い返す。ああ、いくつになっても、たとえ親になったって、なかなか完璧な大人でいることは難しい。

「清一郎」
「……パパ」
「僕の言い訳、聞いてくれるか?」
「………しかたない、きいてあげようか」
「……本当にお前は僕そっくりだな」

清一郎を抱っこしたまま、征ちゃんはソファーのあるところまで清一郎を運んで「お前も、ずいぶん大きくなったな」と微笑みながら、清一郎をソファーにそっと下ろした。

「おれも8歳だからな。身長もそのうちのびる………はず」
「お前は僕似だからな。おそらく中学後半にならないとあまり身長は期待できないぞ」
「うるさい、のびるったらのびる!」
「もー!身長の話はいいから!征ちゃんがそうだったからって、清一郎もそうとは限らないでしょ!」
「あまり期待を持たせるのは良くないだろう」
「経験者は語る、だな?パパ」
「うるさいぞ、清一郎。どや顔をするな」

うわあ、清一郎まじでその顔、征ちゃんそっくりー。

「身長の話はもういい。……名前の話だったな」
「墓穴を掘りかねないからな、パパは」
「うるさいぞ、清一郎」
「清一郎、とりあえず静かに聞いてお願い」
「ごめんなさい、ママ」
「(相変わらず変わり身の早いクソガキだ…)………お前の名前はね、僕が名付けたんだよ」

あんまり覚えてないって言ったくせに、まったく。本当に征ちゃんってば、素直じゃないのだから。

「お前を初めて見たとき、僕はお前は僕にとても似ていると思ったし、今後更に似てくるだろうという予感もしたんだ。勿論見た目もだが、中身もおそらく、とね」
「……似てなど、いない」
「似ているさ、とても。とても、な」
「……うん」
「お前は幼い頃から頭が良い、回転も早く、ひとの感情さえも推し量るほどにとても聡い。だから、もしかしたら、……いつか」

そこで言葉を切った征ちゃんは、困ったように笑って、困惑する清一郎の頭をくしゃくしゃに撫でた。

「名は体を現す。僕の名前は「征十郎」、字の意味だけをなぞれば「多くを征する者」、だ」
「……パパ…」
「僕は僕の名前をそれなりに気に入っていてね。だから、「征」の文字を使うか迷った」
「……」
「だが僕が予感したように、お前が僕にとても似るとしたら、」

あの日の、清一郎の名前を決めた日の表情と同じ表情で、征ちゃんはいとおしげに目を細目ながら、とてもやさしく笑っていた。

「お前には他を征するのではなく、大切なものを守り貫く、そんな人間になってほしい、と」

僕は思ったんだよ、と。そうして笑う征ちゃんは、私を清一郎と一緒に引き寄せて、あたたかく抱きしめた。ああ、やさしい手だな、なんて笑いながら、あの日征ちゃんが小さく口にした「ずっと、決して折れることのなかったあいつのように」という言葉を思い出した。

「僕はお前が、大切なものを決して見失うことなく、まっすぐ一途に思い続けられるような、自分の信念を曲げることなく強く貫くような、そんな男になってくれたらと。……だから、清一郎」

いつか、征ちゃんは言っていたね。あいつには、とても感謝していると。征ちゃんは、私をたった一度傷付けたことをとても後悔していた。だから、自分の信念を頑固なまでに決して変えることなく貫き通した彼を誰より認めていると同時に、実はちょっと憧れていたんじゃないかと思うの。自分にはなかったその強さを。

「忘れるなよ。お前は僕の子で、そして僕が人生をかけて愛している千加の子でもあるんだ」

無意識だろうか、大きな赤い瞳にいっぱい涙をためて、こらえるように口をへの字にして、清一郎は眉間にしわを寄せていた。その静かな泣き方は、やっぱり征ちゃんにそっくりで。そんな様子を笑いながら、征ちゃんは清一郎の頭を再び撫でるのだった。

「だから、……賢いお前ならば、解るだろう?」

征ちゃんは清一郎に対していつもとても大人気ない。それは、清一郎があまりに自分に似すぎているから、ついつい意地を張ってしまうんだろう。そして本当に似ているからこそ、ふたりは私なんかよりもずっとお互いを理解し合えるんだ、そう思ったらどっちにやきもちを妬けば良いのか分からなくなって、結局は珍しくも年相応にむずがる清一郎を抱きしめるしかないのだった。

「清一郎」
「……うん」
「パパはね、意地っ張りだから分かりづらいだろうけどね」
「うん」
「ちょっと千加、意地っ張りってなに」
「意地っ張りでバカで大人気なくて、時々あなたくらい子どもみたいなとこあるけど」
「……千加」

――初めて、清一郎を抱き上げた日。

「でもね、そんな征ちゃんは、本当に心から家族を愛してるんだよ」


――生まれてきてくれて、ありがとう。


「清一郎、私たちの子どもに生まれてきてくれて、本当にありがとう」


生まれたばかりの清一郎を抱き上げて、私の前で数えるほどしか涙を見せたことない征ちゃんが、人生で一番の、うれし泣きをしたこと。覚えているよ。


――僕と、千加の、僕たちの子だ。やっと、やっと、会えた。



「ほら、これがお前が生まれたときの写真だ」

そうやって笑う征ちゃんは、ちゃんと父親の顔をして笑っていた。




名前の由来話は名前変換不可でないとダメなので、こちらで。長いしぐだくだですが、一度書いてみたかったので大満足です。とんでもない捏造話ですみません。完全に征ちゃんさんが……やばいですね。ちなみに征ちゃんさんが一旦席を外したのは、勿論写真を取りに行ってました。

読了、本当にありがとうございました!