ぺちゃんこに潰された、私の足元にある名前も知らない花。右手でくしゃりと、ひらひらと舞う蝶々を潰して、ざりっと地面を蹴れば音もなく消えた蟻。

「ねえねえ、空が綺麗だよ」

私が言うと、淡く微笑むカカシの口元に満足して、私はそのまま続ける。

「まだ春は来ないけど、此処は暖かいね。カカシは寒いの苦手だから、此処は調度よくない?」
「そーだね。でも、ちょっと、寒いかな」
「うそ、私これくらいでいいや。歳じゃない?」
「失礼しちゃうね、まったく」
「ごめんごめん」

右手の蝶々をはらはらと地面に落とし、空を飛ぶ鳥にクナイを投げ付ければ、ぼたりと落ちたそれが痙攣している。そいつの首を折ってやれば、途端に動かなくなる。

「なに?眠いの?」

カカシの目はとろとろとまどろむように落ちてきている。

「まあね」
「寝ないでよ。絶対に」
「はは、無理かも」
「寝たら許さないからね」
「あ、それは嫌かも」
「だったら頑張ってよ」
「それか一緒に寝る?」
「冗談。私は寝ないよ」
「うん。わかってる」

柔らかく、此処の春みたいな気候とピッタリな笑顔で私に笑うカカシの隣に来た野良犬を思いきり蹴り上げて踏み潰した。

「ねえ、カカシ、あそこに桜が咲いてるよ」
「本当だね」
「あそこの下まで行こうよ」
「ちょっと無理かなあ」

そう言って力無く笑うカカシを見れば、その目は悲しそうだった。

「カカシ、寝ちゃだめだよ」
「はは、もーきついっしょ。ねえ、ごまかさないで聞いて。俺ね、ちゃんと好きだったからね、愛してた。はは、案外、照れるね。いつでも言えると思ったんだけど、そーいう訳にもいかないみたいね」
「馬鹿じゃないの?これからも言い続けなさいよ」
「ごめーんね。それは無理。も、きついからさ、最期に、」
「許さない!」

カカシの言葉を制して叫んだ。

「許さない。最期だなんて、絶対に許さない。これからもずっと一緒って言ったじゃない!嘘つき!」
「うん。でも聞いて、俺もう死んじゃ、」
「許さないって言ってるでしょ」

カカシの唇を無理矢理塞いだ。よく考えたら私からキスするのは初めてだ。

「はは、下手くそだね」
「うるさい」
「愛してるよ」

噛み付くようにもう一度キスをした。風が大きく吹いて、最期にカカシの唇が私の唇ごと動いた。それは声になっていなくて、顔をあげたら桜の花びらがたくさん舞っていた。くしゃりともう一輪、花を踏み潰した。カカシはそのたった一瞬で眠っていた。なんでこんなに、安らかな寝顔なのだろう。なんでこんなに、命は簡単に消えていくんだろう。だって数秒前にはカカシも起きてた。

嗚呼、あのね、違うのよ。私、カカシと一緒に生きたいの。生きていたいの。またねって言って、愛してるなんて言葉が欲しいわけじゃなくて、ただ、当たり前のように隣にいてくれさえしたらそれだけで十分なのに、ああ、ねえ、なんで?なんで、そんな簡単に、

カカシの眠る横に現れた蝶々を掴み握りしめた。桜は一枚ずつ花弁を散らす。淋しがりやなあなただから、きっと今逝った蝶々や、鳥や、犬や花と一緒でしょう?

「カカシ、カカシ?私、貴方と生きていきたかったよ」



別れを告げるを塞いで
(さようならなんて、絶対に許さない。)


End

企画サイト最期の恋は叶わぬ恋となり散り果てた様に提出。
とても楽しく書く事ができました。
ありがとうございました!



#nobel#


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