屋上に涼しい風が吹いている。

「んーっ!気持ちいですねーっ!?」

背伸びをして後ろに居る私の方を振り返る軌翠さんは満面の笑みを見せている。そんな軌翠さんに笑う。

「あぁ、そうだな。」

目を瞑り、風を感じる。本当に気持ち良いな、とそう思いながら。暫く風を感じていたが、本来の目的である芥川を探す為、目を開け辺りを見渡す。そんな様子に気付いた軌翠さんも辺りを見渡し始めた。

「・・・居ないですね・・・」

軌翠さんの言葉に返事をすること無く給水塔に視線を流した。疑問に思った軌翠さんは私の傍に近付いてきて、私の視線の先を追う。

「・・・あそこに誰かいるんですか?」

「気配がするだけだ。」

そう言って給水塔に近付く私の後を追って恐る恐る近付く軌翠さん。もしかしたら東條の味方がそこに居るんじゃないか。そんな不安が軌翠さんの中を駆け巡っているのだろう。

「大丈夫だ。」

小声でそう軌翠さんに伝えると給水塔の裏にまわった。

「芥川 慈郎。」

「芥川先輩っ!」

そこに居た人物を見て名前を呼ぶ。呼ばれた芥川はビクッと肩を震わせ、手に持っていた写真へと向けられていた視線をこちらへと移した。チラッとその写真を見ると笑顔のテニス部が写っている。
クスッ。そういうことか。

「な・・・なんで・・・?」

私達を確認した瞬間、目を見開き驚く芥川。

「何で私達がここに来たのか聴きたい?

・・・貴方と話しをする為だ。」

「話・・・?」

そう言って芥川を見る私は今、芥川を見下ろす形になっている。

「そう。貴方はどう思っている?東條のこと。」

「えっ・・・徠歌さん?!」

単刀直入に聞く私を慌てて止めに入ろうとする軌翠さん。そんな彼女を無視して芥川に視線を送る。

「・・・・・・」

それでも黙ったままの芥川に痺れを切らして口を開く。

「東條さんがイジメられていることを貴方も知っていると思うのだが。違うか?」

小さく頷く芥川を見て続ける。

「本当に東條がイジメられていると思っているのか?」

「・・・・・・お、俺は・・・思ってない・・」

その言葉を聴いて安心したような顔を見せる軌翠さんをチラッと見て芥川に戻した。

「もう、素直に話すだろ。お前は何処まで知っている?」

「・・・東條が、自分に傷を作ったりして・・・茜ちゃんを嵌めていたこと。それに怒った皆が茜ちゃんを・・・っ。・・・ごめんなさい・・・俺、俺・・・怖かったんだ。あの関係が壊れることがっ・・・。茜ちゃんがイジメるわけないって分かってたのに・・・・・・皆が怖くて助けることも出来ないで・・・ごめん、茜ちゃん・・・」

芥川は涙を流し、手に持っていた写真をギュッと握りしめていた。

「良いんです。芥川先輩が信じてくれていたことが嬉しいんですから。」

軌翠さんは芥川に近付き、心の底から嬉しそうに笑っていた。
真実を知りながらの傍観者かっ。それが1番酷いことを知っているのか、知らないのか・・・。2人の様子を見守りながらそんなことを考えていた。

「2人の世界に入っている中、悪いんだが。まだ、話は終わってないんだよなぁ・・・」

私の存在を忘れている2人に話しかける。すると、2人はバァッとこちらを振り向き、ははっと乾いた笑いを漏らした。そんな2人に対して私は深い溜息を吐く。

「それで、芥川?このまま傍観者でいるつもりなのか?それとも私達の仲間になって愚かな者達に真実を伝えていくか?」

「えっ?」

芥川は私の言った意味が分からないのか目を真ん丸くしている。

「芥川はこのまま傍観者でも良いのか?怖がってばかりでは前に進めない。

違うか?」

それだけ言うと踵を返した。歩いている私に軌翠さんの視線が突き刺さる。軌翠さんは一体何がどうなったいるのか分からないのだろう。そんな様子が空気から伝わってくる。屋上と校舎を繋ぐドアノブを握る・・・刹那。

「まっ、待ってーっ!」

芥川の叫び声が辺りに響いた。顔だけを芥川の方に向け、なに?と促す。

「おっ、俺はもう・・・っ!怖がらないっ!前に進む・・・っ。もう逃げない・・・っ!」

それだけ聴くとドアを開け、屋上を後にした。静かに締められたドアを芥川は強い意志を瞳に宿し見詰めていた。

to be continued.
11.04.01 up
20.10.24 修正
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