とある街のとある家。
人目を憚るような位置にあるここは世界的に有名な情報屋が住んでいた。
「さっさと食べなさいこの馬鹿クロエ」
一人で住むには些か広い部屋のテーブルに出来立ての料理を並べた女性が冷ややかに椅子に座る少女に向かって吐き捨てた。
「いただきまぁす」
意気揚々とナイフとフォークを持つ少女――クロエはそんな視線をものともせずに食事を始める。
「んー!やっぱりデルフィナちゃんの手料理は美味しいねぇ」
「はいはい、それはどうも」
デルフィナと呼ばれた女性――デルフィニアは投げやりな返事をしながら、纏っていた白いエプロンを脱いで丁寧に折り畳んだ。
「いい加減自炊しなさいよ貴方。いつか死ぬわよ」
呆れたように溜め息吐くデルフィニア。
それもその筈、自分に無頓着なクロエはデルフィニアが訪ねるまでの二週間、何も食べずに過ごしていたのだ。
「いいもーん!だってデルフィナちゃんが作りに来てくれるからぁ」
えへへ、と無邪気に笑う彼女に些か顔をひきつらせたデルフィニアは彼女の頭を軽く叩いた。
「そんなこと言って…、私がいなくなったらどうするのよ」
「その時はその時だよぅ」
あまりにも無頓着な親友に彼女はいつものように頭を痛めた。
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