ごきげんよう、といつもの挨拶を述べて去っていった彼女の背を見送った後、特別にと前置いて話された内容に考察を開始する。



「あの違和感の正体はこれか」



あの日。
わざわざ夜遅くに俺の家に来た日に感じたものがやっと解った。







あれは憎悪だ。



ついさっき浮かべた笑顔に、そのルビーレッドの瞳に籠められていたのは。
囁かれるようなその言葉に孕まれていたのは。



敵意では物足りず、悪意では生温い。



深く暗い、絡み付くような憎悪だった。




いつからあれ程の激情を抱えていたのか。
今までどこにその感情を隠していたのか。



俺といる時には一瞬たりとも見せなかったものに本当に驚いた。





きっと今日問い詰めなければ彼女はこれからもそれを垣間見せることなどしなかったのだろう。





「お前、あいつのカクテルの金も払うんだろう?」

「はいはい、わかってるよ」



彼女が最後に飲んだ、唯一リキュールベースではないカクテル。



「マスター、俺もこれ頂戴」

「お前が度数の低い酒を飲むなんて珍しいな」

「気分だよ」



やれやれと云った調子で出された赤いカクテルに口を付ける。


いつも飲むものに比べると物足りない気もするが、今日ぐらいいいだろう。





「それにしても、あの女はとんでもないものを腹に飼っていたな」

「ホントにね。流石の俺も驚いたよ。今まで普通に過ごしていたのが不思議なぐらいだな」



そう。異常なのだ。
その対象がいなかったから、ではあの姿に矛盾が生じる。
ずっと抱えていて、それでも普通に生活できているならば、むしろそれは狂気と呼んでも差し支えない。




 



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