「……………」
もう夜明けだが、我が主はやっと眠れたらしい。
だが、ここ数日のように声を殺して泣く姿を、いったい何度見たことか。
わたしはオセ。
地獄に住む大悪魔の一つだが、今は諸事情により人間の少女に仕えている。
我が主より賜った名はリル。
今回は少女の姿を取っているので、それらしいものを戴いた。
我が主、デルフィニア様はとても不安定なお方だ。
普段それは振る舞いや言動に隠されているが、わたしのような者には直ぐにわかる。
支えとしていた親友を、いや依存対象を突然失ったからか、それとも生まれ育った環境のせいなのか。
どちらもなのだろう。
すがり付く相手を、他者の温もりを酷く渇望しているのに、喪失と拒絶を恐れて求められない。
同年代の少女よりも精神が成長し過ぎたせいで、自分が何を望んでいるのかすらも分からない。
徹底した礼儀作法で壁を作り上げて閉じ籠る。
とても臆病で、哀れなお方だ。
デルフィニア様がこの世界に来て六年。
わたしと出会ってからは二年。
元々心が強くない我が主はそろそろ限界ではないかと思う。
恐らくあの小娘に復讐を終えるまではその憎悪で正気を繋いでいられるが、それからどうなるのかはまだわからない。
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