「お前、誕生日をどれだけ神聖視してるんだ」
と言うか、普段のお前の行動に比べたら盗みなんて非道でもなんでもないぞ。
その前に誰にそんなこと教えられたんだ。
前々から変な女だとは思っていたが、これ程とは思わなかった。
俺の冷めた視線に気付いたらしく、わざとらしい咳払いを一つして席に着いた。
「とにかく!お誕生日おめでとう。貴方は性格悪いし冷たいし気も短いけれど、お友達でいれて嬉しいわ」
「盛大に貶された気がするけど、どうもありがとう」
ワインの入ったグラスを互いに掲げて、口を付ける。
渋味とコクのある重いワインは確かに俺の好みだった。
「……やっぱり、甘くないわね」
「お子様だな」
「やかましいわね。私は甘党なのよ」
「はいはい」
いつもリキュールベースのカクテルしか飲まない彼女はこの味はお気に召さなかったらしい。
一杯だけ飲み干して、冷蔵庫から白ワインを取り出してきた。
「それにしても、よく俺の好みなんて分かったな」
「いつもそんな感じなものばかり飲んでいるじゃない」
「それもそうか」
彼女の作った料理を食べながらいつも通りの雑談をする。
今更だが、デルフィナの料理は非常に美味い。
そこらのレストランに並んでいてもまったく遜色ない程だ。
その後これまた凝った装飾のケーキが出てきたことは言うまでもないだろう。
今日は色々な意味で忘れられない誕生日だった。
「来年は部屋の飾り付けも頑張るから、楽しみにしていて頂戴ね!」
「……………」
もう何も言うまい。
君のなかにいる誰か
(所謂価値観の違いと云うやつ)
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