「それで、なんのお話だったかしら」
全て並べ終えた後、向かいにあるもう一つの椅子に腰掛けた彼女が早速、と言うようにケーキを口にする。
それに倣うように俺も目の前の紅茶を口に含んだ。
「何故お前の機嫌が良かったか、だろ?」
カップを皿に戻して視線を向けると、彼女は目を見開いていた。
「……ああ、そうだった、わね」
僅かに揺らいだ言葉からも如何に動揺したかが窺える。
だが、次の瞬間には表情を引き締めたのには流石と言えた。
彼女は同業者である自分が用意したものを俺が口にしたのが信じられなかったのだろう。
デルフィナの中では"客をもてなした"と云う事実のみが重要で、そこで完結していたのだから。
確かに俺は彼女を信用も信頼もしてなどない。
これは彼女の方もそうだろう。
だが、"客"に対して毒を盛ることはないことは理解している。
俺を殺すつもりならさっき家に入れた後の殺意のままナイフで刺せばいいだけの話だ。
俺も勿論応戦するだろうが、彼女にはそれだけの技術があるのだから。
「少し、待っていて頂戴」
暫く黙っていたデルフィナはそう一言残して奥の扉から出ていった。
それを見送って彼女に対する考察を再開する。
これは本人自身も口外していることだが、デルフィナは何よりも品格を重んじる。
彼女の嗜好や行動にもそれは如実的に現れている。
事実彼女の仕草には品がある。
この無駄に美味しい紅茶もそうだ。
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