「ねぇ、気配を消して後ろから近付かないで頂戴」
「あれ、バレた?」
飄々と宣<ノタマ>う彼に溜め息を吐く。
ミルス・クレアに来てから溜め息の回数が多くなったのは気のせいではないわね。
「勉強会は終わったんだ?」
「ええ、丁度先程」
「夕食までまだ時間もあるし、娯楽室に行こうよ」
「構わないけれど、なにかあるの?」
歩き出した彼の横に並んで尋ねる。
「ベターカード。やってみない?」
「そう言えばそんなものもあったわね」
娯楽室でそのゲームをしている人を見たことがある。
「なかなか面白いよ」
「そうね、構わないわ」
面白い、と言うことは彼は何度か行っているのかしら。
第1娯楽室には多くの生徒がいた。
暇を持て余している人は意外に多いようね。
「ルールを教えてくださる?」
ボードを挟んで向かい側に座るアルバロに説明を受ける。
単純なゲームだと思っていたけれど、色々と制約があってなかなか頭を使うらしいわね。
「先に3セット取った方が勝ち。因みに負けたら罰ゲームがあるんだよ」
「……罰ゲーム?」
思わず眉を寄せてしまう。
彼と罰ゲームの組み合わせは警戒するべきだわ。
「そう、普段は絶対に言わないような台詞を言わなきゃいけないんだ」
「………」
………それってかなり厳しい。
つまり敗者は羞恥に悶えろ、と云うことかしら。
罰ゲームは嫌だけれど、あのアルバロがなにを言うかは気になる。
「それじゃあ、始めようか」
彼の合図に倣ってカードを持っていない方の手をゲーム盤に触れさせた。
日常に埋もれる
(賭け事は勝ってこそ、よね)
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