仕事に向かってしまったアルバロを見送って一人部屋に戻る。
「誕生日、」
箱をテーブルに置いて開くと、中には綺麗にデコレーションされたホールケーキが鎮座していた。
暫く眺めていたが、終にその場に崩れ落ちてしまう。
「……祝って貰えるなんて、思わなかった」
思わず流れた涙を手の甲で拭う。
アイメイクが落ちてしまったが、気にしてはいられなかった。
誕生日を友達に祝って貰うことはもうないと思っていた。
私の誕生日を祝ってくれたのはクロエだけ。
この【地獄】でも、前にいた【楽園】でも誕生日を祝うことはまったくない。
そもそも、誕生日を祝うと云う概念すら無いに等しかった。
斯く言う私も昔はその意味を理解できず、前世でクロエに拾われてから毎年盛大に祝われる誕生日に疑問を覚えて尋ねたことがある。
彼女は、誕生日とはとても大切な日なのだと言った。
この世界に在る自分が、自分として初めて確立したのが誕生日なのだと語った。
この世に生まれたことは奇跡で、その奇跡が起きたことに感謝するのが誕生日なのだと謳った。
誕生日を祝うことは、その人の存在を慈しむことなのだと笑った。
その時は暗殺一家の長女とは思えない言葉に脱力してしまったけれど、そう思えばこうして祝われることが、とても嬉しいと思った。
だから、私も大切なお友達の誕生日を祝うことに手は抜かない。
だから、彼がこうしてわざわざ仕事の合間にこれを渡しに来てくれたことが本当に嬉しい。
「ありがとう」
ゆっくり呟いて目を閉じる。
酷く満たされた気持ちのまま、私の17年目の誕生日は終わりを迎えた。
涙の理由は聞かないで
(なにかが壊れてしまうから)
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