そっと視線をさ迷わせると、キッチンの下に言い付け通り猫になったリルを見付けて内心ほっとした。
「お前の家までチョコレート臭いとはな」
「バレンタインデーですもの。……それで?なにがあったのかご説明戴けるわよね?」
「……実は、」
仕方無くキッチンで彼の分の紅茶を用意しながら話を聞く。
アルバロ曰く、昨夜からディノと云う友人(?)と飲みながら街をぶらぶらとしていた所に、突然見知らぬ女性が何人も押し掛けてきてチョコレートを渡してきたらしい。
何度断っても聞かないし、一人貰えば全員貰わなければいけなくなるしでいい加減鬱陶しくなった彼は、その場をディノさんに任せて、と言うか押し付けて私の家に来たと言う。
「撒けたのならば自分の家に帰れば良かったじゃないの」
「家の前にも女がいた」
「……………それはまあ、御愁傷様」
と言うか、最早どこからツッコめば良いのかすらわからない。
恋する乙女は最強と言えば良いのか。
それとも、モテる男はツラいと言えば良いのか。
それにしても、こんなに疲れ果てたアルバロを見るのは初めてだわ。
「こんな夜遅くから精が出るわね」
「有り難迷惑の間違いだろ?」
ソファ横からサイドテーブルを引っ張り出して紅茶を置きながら言うと、彼は心底面倒くさそうに前髪を掻き上げた。
「いっそのことすべて貰ってあげれば良かったんじゃない?」
「冗談じゃない。どこの誰が作ったかも分からないものなんて受け取れるか」
「確かに、ね」
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