男審神者受け
安定が酷いので注意
名前変換なし



言い切ってしまおう、別に主を殺したいわけじゃない。ただ血が沸いてしまって、仕方がなかっただけだ。ああ、いや、この説明も何回繰り返したのだろう。

「ぐ、はぅ……はぁ……っ」

梁に吊られた主の肌には鞣された縄が絡みつき、その身体をきつく縛めていた。咬まされた縄を噛み締めて、主ははぁはぁと荒い息を吐く。僕はただ、それを眺めている。熱っぽい視線が絡まって、主の身体がさらに艶めく。

「あふ、はは……っ」

「…………」

いつもそう、主は苦しい時一所懸命僕の名前を呼ぶ。何かを伝えたいみたいに。僕は気付かないふりをして、大きなため息なんか吐いてみる。今日もきっと、主の身体には縄目がつく。刺青みたいに消えなくなってしまえばいいのに。縄目が消えないうちに、また縛らなくてはならないな。

「……主」

「……っ、はぁ……、はぁ……」

返事もできないくらい切羽詰まってる主。僕は主を見つめながら、どうしてこんなことをするのか考えていた。
初めて主が、僕の主になった時、僕は素直に彼がすぐ死ぬと思った。どうせすぐ死ぬ。人なんて僕が振り下ろされれば、首も胴も真っ二つにできるのだ。僕は以前、六つ胴までなら斬ったことがある。6つの身体が引き裂かれる瞬間を僕は覚えている。主がどう死ぬのか、誰かや僕に斬られるのか……そういう想像はなかったけど、きっとすぐ死ぬのだ。ある日主は怪我をした。なんで怪我をしたのかはあんまり覚えてない。頭から血をどくどくと流して、ぐったりした主を見たときに、僕は酷く興奮した。それでも主は死ななかった。死なないんだ、この人は。だから僕は、思った。この人をできるだけ酷く殺そうと。この人をできるだけ酷い目にあわせよう。苦しんで苦しんで、果てに死んだほうがましと思わせて、解放されるのは僕に殺された時。僕は毎晩、僕に殺される主を想像して身体を熱くした。ある日それは想像を超えて、僕は行動することにした。手始めに主のお茶に下剤を入れた。主は厠から出てこなかった。戦場で五虎退がやられてるのをちょっと放っておいた。主は泣きそうになって心配した。風呂場に夜通し閉じ込めた。風邪をひいた。主の部屋に馬糞を持ち込み、綺麗に掃除したところでもう一度ぶちまけた。主はもう一度掃除した。白湯に睡眠薬を少し多めに入れた。死んだように眠った。だんだん嫌がらせの域を超えたそれは、最終的に肉体的に苦しめるという今の形になった。特に今、気に入っているのはこうして梁に吊るして放置するだけ。僕がどんなに酷いことをしても、主が死ぬことはなかった。そして、僕を怒ることもなかった。いっつも笑って、心配事とか不満があるなら言えよ、なんて僕を心配した。そして身体についた縄目を隠すために、着物の下に首まである肌着を着て、何をするときも手袋を外さなかった。それが僕をもっと酷い仕打ちに駆り立てた。次はどうしようか。何をしたら主は苦しむかな。思いつく限りのことをしても、主は死ななかった。どんなにしても死なない主を見ると僕は安心した。逆に酷いことをしないとこの人は死ぬんじゃないか、と僕はずっと安心できなかった。

「あ、雪だ……」

いやに底冷えするので、ふと障子を開けてみると、桜の蕾ももう膨れた春先なのにチラチラと小雪が舞っていた。障子の隙間から流れ込んできた冷たい空気が、縄の痛みに脂汗をかいた主の身体を包む。このまま障子を開け放って、ここを誰かが通るのを待とうか。でも燭台切なんかに見つかって、甲斐甲斐しく介抱される主なんか見たくないからやめた。僕はまた障子を閉めて、行灯の灯りに照らされる主を眺める。こうしているだけで、僕は満たされた気持ちになる。その日僕はそのまま畳の上でうたた寝した。朝起きると主は居なくて、肌を隠すように厚着をして朝餉を食べていた。

「安定、おはよう」

そう言って笑った。

***

次の日の夜、僕は夢を見た。沖田くんの留守中に、沖田くんの部屋で睦みあう志士たちの夢だった。あの時はなんとも思わなかったが、釜を掘られた志士は酷く苦しそうな顔をしている。……そうだ、主のこんな顔が見たい。僕は夢の淵から飛び起きて、主の部屋に向かった。主の部屋の灯りは消えて、布団は膨らんでいたが、僕が障子を開けるとのそのそと影が起き上がる。

「清光?もう、そんなじか……」

僕は主がこちらを見る前に僕はその頭を足蹴にした。布団の向こうに頭をぶつけ転がった主が、苦しそうな声を出す。ぞわっとする。

「うあっ、安定……?」

「悪かったな、清光じゃなくて」

やっと僕の顔を見た主の顔は、曇天の月光に浮かび上がらされたせいか、やけにほけっとしていて僕を苛つかせた。そのまま足で転がして、畳の上で胸を踏みつける。

「清光もよく来るの?ここへ?」

「はぁぅ……っ、っ、いや、ちがっ……」

「ふうん?来るんだ?」

ああ、なんだか苛々するな。主は空気が無くて死に近づいて、こんなに苦しそうな顔をしてるのになんでかな。僕は怒りに任せてその顎を爪先で撫でて、足を主の上から下ろした。

「今日は縛ったりしないけど……」

「……はぁっ、はぁっ……」

窒息しそうな主を見に来た訳じゃない。僕は屈むと、主の寝間着を片手で引っ掴み、ひっくり返してうつ伏せにした。いくら僕が名刀の九十九神だからといって、片手でひっくり返すなんて出来るわけない。主はいつも、これから酷いことをされるって分かって僕に協力する。それが僕を酷くさせる理由になったし、同時に免罪符代わりになった。無理矢理じゃないのだと、僕は僕にいつも言い聞かせるのだ。主の寝間着を下から引き上げて、尻を露わにする。主はいつも通り、褌ではない下着を身につけていて、これは褌より脱がせやすいことを僕は知っていた。一気にそれも剥ぎ取る。

「え、ま、まて、安定」

「……なに?」
「なに、するんだ……?」

少し怯えた様子で振り返り、聞き返してくる主は新鮮だった。いつもは諦めたみたいに疲れた顔で、僕に従うだけだったから。僕は内心嬉しさを隠しながら、伏し目がちに主を見下し、尾骨から下へと人差し指を這わせる。

「ここを、犯すんだ」

「え……っ!な、なんで、そんな……」

主は明らかに動揺した。僕は嬉しくて、嬉しくて、微笑みを抑えきれなかった。今までどんな酷いことをしても、殺す寸前まで虐め抜いても、甘受し続け翌朝には笑って許す主が、今、釜を掘ると行っただけでこんなに狼狽えている。まるで隠された宝物をやっと見つけた子供みたいに僕はにやにや笑いながら、窄まった主のそこへ指を這わす。このままじゃやりにくいな。

「脚開いて」

「いや、だ……」

「…………」

僕が無言で見下ろすと、主は怖ず怖ずとお尻を上げる形で脚を開いた。否定の言葉を聞いたのは初めてだ。主のそこは不思議と何かの液体で濡れていて、指が簡単に入っていく。僕だって釜を掘るのなんか初めてだからわからないけど、こんなに簡単に入るものなのか?主はすこし眉根を寄せて僕を眺めていた。その、不快そうな顔はいい。普段は大きな反応をしない主の見慣れない反応に、僕自身はすでに興奮の兆しを見せていた。この分だと、少し無理すれば掘るのも難しく無さそうだ。僕は着衣を解いて、自身を取り出した。

「そ、んな、いきなりはむりだ……」

「優しくしてあげるとでも思ったの?」

「お……」

主は何かを言おうとして押し黙った。僕は構わず指を入れていたそこに自身をあてがう。入れようとすると、ぬるりと滑って入らない。もう一度、もう一度、ダメ、入らない。僕のも濡れてないとダメなのかな。でも通和散なんか持ってないし、主が苦しむのを見たいのに優しく解してあげるなんて御免だ。僕は少し考えて、主の前へ移動した。尻だけ上げた主は這い蹲るようにして顔を埋めていたので、前髪を掴んで顔を上げさせる。

「咥えろ」

主の泣きそうな顔。僕を見上げながら、切っ先を口に含む。巧みに僕を気持ちよくしようと舌や唇を使うので、僕は少し苛立った。僕は別に、口取りをしてほしい訳じゃないんだ。無理矢理ぐぐっと喉の奥まで自身を押し込むと主は苦しそうにえづいて、僕を満足させた。

「苦しいんだ?」

「えぼ……っヴェッ」

口の端からたらたら涎が垂れる。僕のものは充分に濡れた。口からそれを抜いて、また主の尻を上げさせた。今度は入るよね。尻を引き寄せて腰を推し進めると、今度はなんとか、飲み込まれていく。コレ、僕もかなりキツい……。主は堪えるように這い蹲って、ウンウン苦しそうに唸っていた。こっち向かせれば良かったな、失敗したな。でも主をひっくり返すとか、そういう余裕は無かった。

「……っあ、ウッ……やす、さだ……っ」

いつもそう、主は苦しい時一所懸命僕の名前を呼ぶ。今日は一層、何かを伝えたいみたいに。僕はその声を掻き消すように、主の尻を引っ叩いた。そのまま乱暴に腰を動かす。

「アッ、ぐぅっ、まだ、キツッ……っ!」

いつもだったら縛っても首を締めても引っ叩いても、虚ろな目で僕を見るだけなのに。泣きべそなんてかくなんて、今日の主は変だ。そんな姿皆が見たらどう思うだろう。皆の前で主を犯す想像が頭を過って、僕は少し気分を悪くした。苦しんでカッコ悪い主なんて、僕だけが知っていればいいんだ。主のそこは出し入れすると、だんだんぐずぐずと解れてきて、動きやすくなった。主は泣きべそをかきながら次第に艶っぽい声を出す。

「犯されてるのに、感じてる、なんて、変態?」

「……っあ、っ、んぁ……ズビ……ッふ、ふぅう……」

罵ったけれど、僕はなんとも言えない気持ちになる。主の中は本当に気持ちが良かった。このままずっと繋がっていたいと思った。不思議と、いつも主が死にそうな時に感じている興奮とは、違うところが満たされていく。この気持ちはなんなんだろう。比例して興奮も高まって、僕はついに主の中に射精した。主もいつから昂ぶっていたのかはわからないが、僕と同じくして畳の上に射精した。

「ハァ……ハァ……ッ」

「フーッ……フー……ッ」

二人分の荒い息が部屋に散らばる。主はのろのろと緩慢な動きで起き上がると、僕の前に座ってその腕を伸ばした。不意打ちだったので、僕は主に抱きしめられたまま後ろに倒れる。頭は主の腕に守られて、痛みは無かった。こういう時、僕に従う以外で主が動いたのは、初めてのことだった。主は僕の顔の両側に手をついて、僕の頬に涙を零す。

「安定、ごめんな……っ」

「……」

「ごめん、ごめんな……っ」

面食らって動けない僕に主が繰り返す。なんで主が謝るんだ。僕は謝られるようなことはしてない。むしろ、いつもいつも僕が謝らなくちゃいけないのに。主は謝り続けて少し落ち着いたのか、涙を拭い僕の目を真っ直ぐ見つめた。何かを伝えたい目だった。

「安定、俺はな、ゲイなんだ」

「げい……?」

「男が、好きなんだ……」

主の時代では男色をする人をゲイと呼ぶのか。キリスト教に詳しい長谷部から、向こうの人は男色を軽蔑するものだと聞いたことがある。開国した後、キリスト教が広く周知された未来日本では、主も同じく軽蔑されて過ごしてきたのかもしれない。

「こんなこと言うと嫌われてしまうかも……しれない……けど、俺は安定が、好きで……」

「え……?」

「ずっと、会った時から……ずっと……!」

今まで相当苦しめて来たのに、こんなに苦しそうな主を見たのは初めてだ。けれど言葉を選んで一つ一つ一所懸命に呟く主は、もう随分前から僕が親しんできたものにも見えた。主がいつも僕の名前を呼んでいた、伝えたいことはきっとこのことなんだ。

「お前が俺のこと嫌いなのは知ってた。嫌がらせも……でも……俺は……それすらも……嬉しくて……っ」

「…………」

「今日だって、無理矢理なのに……俺はお前と繋がれたこと、本当にっ、本当に……!」

「主……?」

「こんなこと、言ってごめん……お前を好きで、ごめ……」

主の言葉を遮って、その首に縋り付いて唇を塞いだ。謝らないで、謝らないでよ。なんで、早く気がつかなかったんだろう。僕が君を殺したいと思ったのはなんでなのか、今やっとわかったよ。

「ねぇ……」

「安定……?」

僕の大切な人は、僕の知らないうちに、僕を握ること無く死んでしまった。僕は気がついたら一人ぼっちだった。もう大切な人が、僕の知らないところで知らないうちにいなくなってしまうなんて、死んでしまうなんて許せない。だったら僕の前で、僕の手で、僕で死んでしまえばいいのだ。僕がそれを永遠に忘れないように、酷く酷く、苦しんで死ねばいいのだ。だから僕は、いつも君を苦しめていたのだ。なんだ。なんでこんな簡単なことに気がつかなかったんだろう。

「ずっと前から、僕も好きだったみたいだ」

主は驚いて、次の瞬間にぼろぼろ泣いた。顔をくしゃくしゃにして、唸りながら泣いた。僕はなんだか切なくて、主のどんどん溢れてくる涙を一所懸命拭った。その顔はこんな緩みきったカッコ悪い顔なのに、今までのどんな苦しい顔より僕を満たした。酷いことなんてしなくたって、僕はこの顔を永遠に忘れないだろう。ずっと、ずっと、永遠に……。




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