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小狐丸オチ



「ぬしさま!ぬしさま〜!」

春、麗らかに。本丸は私の育った都会のセキュリティーマンションとは違って、平屋の日本家屋。中庭には桃の花が咲き乱れ、少し早い春の訪れを知らせていた。幕府からはこの家にぴったりな小袖も支給されてはいるが、自分で着ることができなくて私は洋服で過ごしている。ただ、冬の間ここへ来て初めて着た半纏の暖かさに驚いて、その流れでTシャツ短パンの上から生地の良い羽織をはおっていた。縁側に座って桃の花を眺めて、燭台切の淹れてくれた緑茶を啜っていると、手入れに行かせていた小狐丸が廊下を駆けてきた。私の隣に滑り込むように腰を下ろすと、横からばっと手を回して肩口に擦り寄る。いつものことだ。

「ぬしさま、すっかり毛並みが綺麗になりましたぞぉ」

「うん、うん、よかったねぇ」

最初のころはべたべたくっついてくる小狐丸に身を硬くしていたけれど、最近はもうこの甘えたにも慣れてきた。顎の下を撫でると彼はとても喜ぶので、頬にくっつく顔の下をつるつると撫でてやる。うらうらと柔らかい風が、小狐丸の髪を揺らした。

「小狐丸、薬研がお稲荷さん作ってくれてるんだけど、そろそろ出来る頃だと思う。食べる?」

「なんと!一緒に食べたいです!」

「うん、台所にあるからとっておいで」

小狐丸は私から離れると、どかどかと足音を立てながら台所へ向かっていった。あ、そういえば薬研、小狐丸がこっそりおあげさんを食べたこと怒ってたんだったなぁ。今行ったら怒られちゃうかも。まぁ、小狐丸が悪いか……。日差しはほんのり暖かく、緑の空気は清々しい。花盛りの桃は散る事なく鮮やかに咲き誇り、空はまだ冬の匂いを残して、高く澄んで青を映していた。絵に描いたように美しい中庭に、ひょっこりと紺色の影が差した。

「おや?花見か?」

「あ、三日月」

「ふーむ、小娘もそんな風流なことが出来るのだな」

「よ、余計なお世話ね」

「はっはっはっ、冗談だ」

三日月は笑いながら軽い足取りで私の横に腰掛けると草履を脱ぎ、私の目をまっすぐ見つめて口元だけ笑った。笑顔や笑い声とは裏腹に、三日月の目はなかなか笑わない。その射抜かれそうな目に、私は思わず目線を逸らした。常温になった湯のみを手元のお盆に置いて、三日月の事なんて気にしてない素振りをとる。三日月はふいに、私の肩に顔を近づけた。

「……主?なにか、おかしな匂いがするな?」

「え……?あ、この羽織のせいかも。洗うとき柔軟剤入れたから……」

「そうではなく……ああ」

三日月は何か思い出したような顔をして、今度は目元を垂らした。そのまま私の首に手を回して、ぎゅうっと私を引き寄せる。な、ここれは、だ、抱きつかれている……よ、ね?断然近くなった顔を意識しないように逸らしながら、びっくりして腕の中で暴れたが、そんなこと物ともせず三日月は笑い声を上げた。

「わ、や、いきなり……っ!」

「はっはっはっ、よきかな、よきかな」

「なにが!よきかな、じゃない……!」

私が男の人に不慣れなのを知っていて、三日月はこういう態度をとる。他人の苦手なことをわざとするし、苦手だってことに気がついていないふりをするのが抜群に上手い。三日月からしたら、私は本当に小娘なのだ。小娘をからかって遊ぶのが、このご老体の一番楽しい遊び。趣味が悪くて、本当に困る。

「ねぇ、離してよ」

「お?余裕が出てきたな?このまま"ウ"でもするか?」

「う?」

「ええと、主の言葉で……なんだったかなぁ……忘れてしまった。実践してみるか?」

「い、いやです……離してください」

絶対ろくなことじゃない。一所懸命回された腕に力を入れていたら、今まで引き剥がそうとしてた腕がぱっと簡単に離れた。いつもはこっちが居た堪れなくなるほどしつこくいじめてくるのに、今日はなんだか優しいんだな。

「樋箱……じゃなかったな、用を足してくる」

トイレかい!一瞬でも優しいと思った私が阿呆だった。三日月はいつもの三日月だった。三日月は立ち上がって廊下に歩を進めると、そっと私を振り返った。

「ああ、そうだ。立腹した獣が出たら呼んでくれ、焚き付けて丸焼きにしよう」

「……?なんのこと?」

「……あー、漏れそうだー……」

「は、早く行って!」

ご老体、本丸で粗相はしないでほしいものだ。三日月の姿が見えなくなると同時に、廊下を歩く大きな音が聞こえてきた。今度は誰だ……?と思ったら、ちょっとしょんぼりした小狐丸が戻ってきた。

「うう……ぬしさま、オアズケをされてしまいました……」

「あー、やっぱり薬研怒ってた?」

「わ、わかってて行かせたのですか?ぬしさまは酷いお方だ……」

「ごめんねぇ、後から気づいたの」

大きな身体の小狐丸が、心なしか少し小さく見える。これはかなりこっ酷く叱られたな。小さな薬研に怒鳴られて萎縮する小狐丸がふと頭に浮かんで、私は思わず微笑んだ。とんとん、と手で隣を示すと、小狐丸はおとなしく私の隣に腰掛ける。

「ぬしさま、私が叱られるのがそんなに……」

「ごめんて、ふふ……」

「……?」

「ん、どうしたの?」

隣に座った小狐丸は、先ほどとは違う雰囲気で眉間に皺を寄せている。顔を私の肩に寄せて戯れつくかと思いきや、さらに眉間の皺を深くした。

「…………」

「ねぇ、どうしたの小狐丸?」

「なんでもありませぬ。……ただ、その、」

「なに?」

「…………匂い、」

「ええっとねぇ、柔軟剤が……そんなに匂うかなぁ……。さっき三日月にも言われたんだけど……」

「……やはり!」

小狐丸は完全に怒った顔で、私の両肩に手を置いた。庭の方を向いていた私の身体を自分の方へ向けて、ムッとした顔で私の目を見つめる。な、なんでそんなに怒ってるの?そんなにお稲荷さんをお預けにされたのが悔しかったのか、食べ物の恨みは怖い。

「ご、ごめんて。薬研には私から言っておくから……」

「違います!」

「お稲荷さんなら……」

「違うのです!」

「……なに?」

「……ぬしさまは私以外の香を身体に付けてはいけません!」

「……?」

こう?とは?現代生まれの私は、彼らの言葉が時々わからない。文字で書かれていればなんとか漢字で読み取れるものもあるものの、口語になると、すぐには頭に意味が出てこないことがある。こう、とはどんな漢字だろう。高だろうか?それとも公?

「……それはそれは随分、身勝手なことを言うものだな」

「……三日月宗近」

「三日月でよいと言うているだろう」

トイレを済ましたと思われる三日月が、私たちの後ろに音もなく立っていた。口元は笑っているのに、小狐丸を見下すその目線はとても冷たい。にこにこと笑いながら、少し顎をしゃくった。

「それとも主の思ひ人はお前なのか?小狐」

「……それは……」

「ウの一つでも交わしたか?お前が主の身を案ずる謂れはあるか?」

「……っ」

「はっはっはっ、そう怖い顔をするな、面白いではないか」

キリキリと見つめ合う二人の間を、張り詰めた空気が満たしている。すっかり三日月に気を取られて力の抜けた小狐丸の手が、まだ肩に触れていた。牽制しあう二人の気に当てられて、私も身じろぎ一つできない。話の意味もわからず止めに入ったら逆効果なのは明らかだった。小狐丸の言う、こう、とはなんなんだろう。深く考えこむ私の前を、次の瞬間急な風がふわっと攫って、唇に、柔らかいものが触れた。開いたままの目に映ったのは、ごく近いところにある、ただ冷たく微笑むことのない、奥に欠けた月を称える二つの瞳だった。

「……!」

「思い出した、主の言葉できっす、だったな」

「……っ!き、さま!」

鼻の先で三日月がにんまり笑んだと思うと、私の前で二人が両腕を組み合った。小狐丸は今にも噛みつきそうなくらい怒った顔で、三日月を射殺さんばかりに睨みつけている。太い腕が肉を剥ぎ取らんと三日月の腕に食い込み、ふるふると震えている。一方の三日月は表情こそ窺えないが、線の細い身体から想像出来ないような力で小狐丸を押し返し、ついにその大きな身体を張り倒してしまった。

「俺も主に誓わせたいものだなぁ、俺の香以外付けるな、とね」

「ふざけるな……!」

「そんなでかい図体をしてこの老体に打ち倒されておきながら、戯れがすぎるのはどちらか?」

「……っ!」

「あア、でかいのは態度もだったな。小さいのは名前と、肝っ玉か……?」

「……殺……」

「……け、喧嘩しないでよ!」

思わず立ち上がって口に出した言葉に、小狐丸は少し驚いて、三日月は少し微笑んで私を見た。二人から出ていた凄まじい気迫が少し緩んで、私は内心肩を撫で下ろす。次の言葉が出てこない私に、二人はそこへ座り直した。

「あいわかった、乱暴はやめよう。狐は血の気が多くて困るな」

「なんだと……?」

「小狐丸やめて!」

「おお、怖い怖い……」

「三日月も黙って!」

また啀み合う二人を黙らせて、私は仁王立ちして腕を組んだ。

「どうして喧嘩するの?一緒に戦う仲間でしょ?それで、もし統率が取れなかったらどうするの?私たちは負けられないん…………ちょっと、三日月なんで笑ってるの!」

にやにやしていた三日月は私に咎められると、我慢をやめて口を開けて笑った。全く人をおちょくるのはやめてほしい。さっきの喧嘩だって、まだ話が読めないけどきっと三日月が原因に違いない。小狐丸は相変わらず苦虫を噛み潰したような顰めっ面をしていた。

「あっはっはっ!いや〜なぜ喧嘩をするのか聞かれたものでなぁ、可笑しくて可笑しくて」

「はぁ?理由があるから喧嘩してるんでしょ?」

「ふっはっはっ、怒った顔も愛らしいものだな」

「話をすり替えないで!」

「いや、すり替えてないぞ。なぁ小狐よ」

「……」

小狐丸は黙ったまま、牽制をするように三日月を睨みつけていた。どうも話が読めない。ただ、このままではいつ小狐丸が三日月に掴みかかってもおかしくない。理由の追求より、この場を収めなくては。三日月のペースに乗せられないように、一度深呼吸をする。

「……とりあえず、仲直りしようよ」

「……いや、しかしぬしさま、宜しいのですか?」

「なにが……?」

「こやつはぬしさまにウを……!」

……ウって、キスのことなんだ……すっかり忘れてたけど、そうだったね。三日月には後でお仕置きと称して、社会奉仕活動をさせよう。いや、でもそれは私と三日月の問題だから、小狐丸には関係ないと思うんだけどな。

「ふーむ、しかしなぁ主よ。俺たちも子供じゃないんだ。主に言われたからといって、あいわかったで済まないこともある。特に今回の件は……放っておくと、小狐はどの刀にも噛み付くだろうなぁ。いやはや、図体がデカくて、肝っ玉が小さくて……噛み付いたのが俺で良かったんじゃないか?」

「斬り殺されたいとしか思えん……」

「……できるのか?お前に……」

「あー!やーー!やめよう!やめよう!」

「しかしぬしさま!」

「いいよ、小狐丸。うーん、じゃ、じゃあ、どうしたら仲直りできるの……?」

一発触発の、やばい状況である。小狐丸に解決方法を聞いたら、こやつを解刀しましょう!とか言いかねないので、こんな時でも落ち着きはらっている三日月に聞いた。三日月は少し考え込む素振りをしながら、ゆったりと瞬きをした。

「ふーむ、そうだなぁ、主に協力してもらうのが一番かも知らんな」

「協力するよ!だから喧嘩は……」

「はっはっはっ!言ったな!こっちへ来い。小狐、お前もだ」

三日月は立ち上がって私の手を引いた。三日月にしては強引に、私を引っ張るようにして連れて行く。後ろからは、まだ怒った顔をした小狐丸が渋々ついてきた。


***


どこへ行くのかと思いきや、やって来たのは私の自室で、三日月は私の手を離して部屋の隅に畳んで置いてあったお布団をずるずると引っ張ってきた。少し眉間のシワが浅くなった小狐丸が、私の隣でその様子を眺めている。適当に広げた布団の上に座った三日月が私に隣を示したので、おとなしくそれに従う。

「主は誰かのものか?」

「そんなわけないでしょ」

「では、あのデカイ小狐に、それを理解させねばならない。その為には本丸じゅうの刀たちを連れてくるのが一番なんだが、それでは主がちと可哀想だからな。この爺で我慢してくれ」

「どういうこ……」

唇同士が触れて、つるんと柔らかなものが口の中に滑り込んでくる。柔らかいものは私の口の奥深くへぐっと巧みに入り込んで、びっくりした私は全身で逃げようとした。しかし、頭の後ろに回された手がそれを許さない。だんだん息が出来なくなって、口の中が気持ち悪い。やめて欲しくて伸ばした舌が、硬いものに当たった。

「ん、も、やめっ!」

「き、さま……!」

強い力に引き寄せられて、やっと私の唇は解放された。三日月は妖艶に笑って、濡らした口元を袖で拭う。間近にある小狐丸の歯がカチカチと鳴っていた。

「小狐、したければすればいい。主はいまのところは俺のものではないからな。いまのところ、な?」

「……え、ちょ、まっ……」

いや、おかしい。たしかに私は誰のものでもないし、誰のものでもなければ誰もキスしたりしないはずだ。二人とも怒っておかしくなっているので一旦場を鎮めようとしたけれど、その言葉は今度は小狐丸の唇に飲み込まれた。荒々しい動きで口の中を暴れられて、思わず呻き声が漏れる。角度を変えて、慈しむように、何度も何度も唇を合わせられながら、胡座をかいた小狐丸の脚の間に横抱きにされた。

「ぬしさま……」

「はぁ……は……あ、あのさぁ……」

這い出るようにして、小狐丸の膝からのそのそと立ち上がり、怒号の一つでも浴びせてやろうと怒り顔で向き直る。しかし、後ろから手が伸びてきて、羽織の上から一瞬で短パンと下着を下ろされた。座った小狐丸の目の前に、私の大変なところが露わになる。

「ギャッ!」

三日月お前か!何してくれるんだ!その場に崩れるようにして座って、局部を手で隠す。後ろからは楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

「はっはっはっはっ」

「三日月!馬鹿!」

「この男だらけの本丸でおおっぴらに脚を曝け出しているということは、そうしても良いというふうに取られても仕方がないぞ?」

「い、意味わかんない!おかしいよね?小狐丸?」

「……っ、ぬしさま、私の我慢は本当に正しかったのですよね……?」

「はい?」

いやいや、いや、何が我慢なんだ。いくら脚が太くて見苦しいからと言ってパンツを脱がしていい理由にはならない。兎にも角にもとりあえずズボンを履こうと、もぞもぞ隠しながら動こうとしたら、前に突き飛ばされて脚から洋服を抜かれた。取り返そうと三日月の方を向いて手を伸ばすけれど、届かない。み、三日月お前……!

「やだ!悪戯が過ぎるっ!返して三日月!」

「あっはっは!ほれ、ほれ、こっちだ、こっちだ」

「ほんっとに返して!信じられない!」

「おやおや主どの、小狐にツビが見えておるぞ?よいのか?」

「え?つび?」

また知らない言葉が出てきた。四つん這いのまま後ろを振り返ると、小狐丸は目をまんまるくして私の顔とは別の所を眺めていた。どこを見ているのか、その目線の先を辿る途中で、小狐丸はまるで雪の中に隠れた兎を獲る狐みたいに私に飛びかかる。私は布団の上に潰れるようにして、その重い身体の下敷きになった。

「……っ、おもっ!重い!小狐丸!」

「…………ぬしさまが悪いのですよ」

小狐丸は呟くと、私に掛かる少し重みを緩めてから、下から回した右手で私の頭をがっしりと押さえつけて、耳に歯を立てた。尖った八重歯が当たって、ぴりりと痛みが走る。左手はお腹の辺りを荒々しく這い回り、その手つきに不安がぞわぞわと溢れてくる。小狐丸が何をしようとしているのか、なんとなくわかってしまう。

「た、助け、て……三日月……っ」

「いやー……助けたいのはやまやまなんだが、この爺は何度もデカい狐と戯れあう体力はないのでな。水でも汲みに行ってくる」

「み、水って……!ちょ、やめて、小狐丸……!」

のっそりと立ち上がって部屋から出て行く三日月に脇目も振らず、小狐丸は私の耳をねちっこく攻める。ぬしさまぬしさま、と熱い息を吹き込まれ、ついに私の局部に大きな手が伸びた。いつも戯れついてくる、かわいい小狐丸じゃない。はぁはぁと荒い息を零して、今にも私を食べようとする男という生き物。秘められたソコを撫でるように何度も擦って、私が音を上げるのを待っている。私は何に対しても我慢比べなら得意な方だけれど、自分が思っていたより耳の後ろは弱いらしく、弱点を突かれた私は無意識に、小狐丸につられるようにだんだんと息が荒くなっていく。

「ぬしさま、ツビが泣いて参りました。私を受け入れてくれているのですね?」

「だから、ツビ、て、なによ、……や、やぁん、みみ、やめ」

「ぬしさまが受け入れてくれるのなら……もっと早くこうすれば良うございました」

「んぁ、あっ……!」

突起に触れられて、痛いくらいの衝撃が身体を走る。私が甘い声を出すのがそんなに面白いのか、そこばかり爪弾かれて漏れる声が止まらない。たまに滑りを足すように下を撫でられて、その刺激までもが身体を駆け巡る。相変わらず私は小狐丸の身体の下に組み敷かれ、耳は舐られ続けていた。次第に秘められた穴の中まで太くて長い指が差し込まれる。中を擦られるたび、ぞくぞくしたものが湧き上がってきた。

「や、あっ、あっ……あぁっ……」

「んは、はぁ……っぬしさまぁ、ぬしさま……っ」

「いや〜淫りがわしい狐は見られたものではないな」

「……あっ、三日月……!」

開けた障子を閉めて、小脇に桶を抱えた三日月が私たちを見下ろして笑っていた。三日月に驚いたのか小狐丸の力が弱まったので、力を振り絞って腕の中から抜け出して、横向きに俯くようにして布団の上へ寝転がり息を整えた。小狐丸はギラギラした紅い目で、三日月を見上げていた。

「ふむ、よきかな、よきかな。なかなかに艶やかではないか。ここまで主を仕立て上げるとは、無様な小狐にも誉をあげても良いかもしれんな」

「……何しに来た?」

「はっはっはっ、そんなの分かりきったことだろう」

持ってきた桶を布団の外に置いて、三日月は慣れた手つきで装備を外していく。上に着た青い着物を脱ぐと、ぐったりと身体を横たえる私の隣へ腰を下ろした。小狐丸の唾液でべったりとした私の耳元に口を寄せて、囁くように、しかし小狐丸に聴こえるように呟く。

「其方と目合いに来たのだ」

あ、今のはなんとなくわかるけど……わかりたくなかった。まぐわい、っていうのは、その、えっち、すること……だと思う。意味がわかってすぐに否定の言葉を叫んで逃げようとしたけれど、それより早く私の目の前に三日月の腕が刺さった。これは、逃げられない。

「まさか主よ、いやだ、などと言うのではあるまいな?この俺も、そこの小狐も、其方と目合いたくて堪らんのだぞ?」

「ぬしさまから離れろ!」

「早く目合いたくてツビに許しを請うていた小狐に言われたくないな?何度も言うが、主は小狐のものではないのだぞ」

「うるさい!だとしても、お前はぬしさまを想ってはいない!」

「口が過ぎるぞ、小狐」

三日月の口調は至って静かなのに、その言葉一つで部屋の空気が張り詰めた。今まで駄々っ子みたいに吠えていた小狐丸も、すっかり黙ってしまう。三日月は小狐丸が黙ったのを確認すると、私の方へ向き直った。

「主よ、見てみろ。小狐はあんなに魔羅を滾らせているだろう?」

まら、てなんだろう。三日月に抱き起こされて小狐丸の方を見ると、小狐丸は少し俯いてもぞもぞと着物を寛げた。褌の前が、何かに押し上げられるように膨らんでいる。それがなにかわからないほど私は無知じゃない。そうか、それが魔羅か……。褌から取り出された小狐丸の魔羅は、凶悪なほどの大きさだった。

「はっはっは。あれはちとデカすぎるな。デカイのは図体と、態度と、魔羅もだったとはなぁ〜はっはっはっはっ」

「ぬ、ぬしさま……」

「アレをそのまま挿れるのは主には辛いだろう?」

私が小さく頷くと、三日月はにっこりと笑って着物の前を寛げる。褌から出てきた魔羅は……その……小狐丸ほどではないけど、決して小さいものではなかった。

「何を驚いている。言ったはずだぞ?俺も其方と目合いたいと」

「や、むりだよ……」

「はっはっはっ、駄々を捏ねるな。それとも、嫌よ嫌よもということか?幾年経っても女というものは変わらんな。ちと待たれよ」

三日月は持ってきた桶から、白っぽくて細長い、桃などの果物用のネットみたいなものを取り出した。水に浸されていたそれの形を整えて、魔羅に被せていく。これは?コンドームか何かだろうか。それにしては先端が開いている。私が不思議に思って眺めていると、小狐丸が口を開いた。

「……それはなんだ?」

「なんだ小狐、知らんのか?これはな、肥後ずいきだ」

「ずいき?芋か?」

「ふむ、まぁな。後でええと……何だったかな、ああ、そうだ……ぐーぐるにでも聞くがいい」

グーグルて。心の中でツッコミを入れた私に、肥後ずいきを嵌め終えた三日月が覆い被さる。私の両脚を大きく開いて、湿ったそこに、肥後ずいきのついた魔羅をあてがった。

「いくぞ、良いな?」

雰囲気こそ和姦ぽいが、強姦されそうになっているとは思えないほど私は落ち着いていた。この二人の恐ろしさというのは、一緒に過ごしていればわかる。ここ一時間くらいでお察しの通り、三日月にとって私は小娘だし、小狐丸だって本気を出せば私ごときの息の根を止めることだって簡単だろう。だからここでジタバタしても仕方ないと思うのだ。でも、もっと言うなら、この二人の優しさだって、一緒に過ごしていればわかる。……と、私は信じているし、正直な話ここでやめてほしい。

「……ね、ねぇ、今なら全部無かったことにしてあげるから、もうやめよ?ね?」

「酷いな。ここまでしておいて無かったことになど、したくないに決まっているだろう?」

「……ぬしさま、男というのは一度火が点いたら止まれないものなのです」

「ははは、小狐にしては良いことを言うな」

擦り付けられる三日月の魔羅が突起を擽って、私は思わず息を漏らす。いつも穏やかな三日月の目が、さっきの小狐丸と同じようにギラギラと光り、私を射殺そうとしているようだ。その目に私は萎縮してしまう。

「どうしても、だめ……?」

「……そんな美しい顔をしても、更に焚き付けられるだけだな。ほれ、力を抜け」

中が魔羅で押し広げられて、身体がカッと熱を持つ。ぬるりと滑る感覚と、身体を突き刺すような感覚に、私は息の仕方を忘れて覚束ない吐息を吐き出す。身体中に、力が入っているのか抜けているのかはわからないが、身を捩ることも出来ない。どんどんと、身体が暴かれていく。

「は、其方は細くて、折れぬと思ったが、ふぅ……っ、身体に合わせてツビも柔らかくてところせし、ふふ、奥まで入った、ぞ……」

みっちりと詰まった中から、ゆっくりと魔羅が逃げていく。数回に分けてやっと息を吐いて、少しでも身体を落ち着ける。悪寒のような刺激を宥めて楽になった身体に、再びずくん、と激しく突き入れられた。

「アッ!ああっ!」

「動くぞ、もっと喘げ。小狐に見せつけてやろう」

中を探る動きが大きくなり、身体の奥が凄まじい勢いで騒めく。口からは止めどなく言葉にならない叫びが漏れ出し、自然に身体が縮こまる。虚ろになりそうな意識の中で、小狐丸を窺うと、彼は私を食い入るように見つめながら自分の魔羅を握っていた。

「や、あっ、んぁっ……み、か、づ……っ」

身体を縮こめたらいいのか、伸ばしたらいいのか全く見当もつかない。腕は縮こまり、膝は自然に強く折り畳まれるのに、つま先は痛いくらいに伸びている。自分の身体が、自分の意思とは全く違う動きをしてしまう。はしたない声だって出したくない、ちゃんと三日月を呼ぶことだって出来そうなのに、律動に合わせて嬌声は上がるし、息遣いが邪魔して名前も途切れ途切れにしか口にできない。思い通りにならない自分が気持ち悪くて、けれど不思議とそれ以外は全く気持ち悪いとは思わなかった。そう、悪寒のような刺激ですら。

「はぁ……っツビが震えておる。忍ばざりてよいのだぞ」

「んっん、ア……ッ!」

三日月が奥を穿ち、身体中が戦慄き息がギュッと止まる。死んでしまう寸前まで意識が高いところに引き上げられる。何と表現したらいいのかわからない。わからないけど、その瞬間、三日月も私も身体を反らした。意識の端がゆらゆらと身体に戻ってくると、中で三日月の魔羅が震えているのを感じた。刀の子を身籠ることはあるのだろうか、とどこか頭の奥で冷静に考える。神の子を処女のまま身篭ったのは、神道とは全く関係ない話だったっけか。

「ふふ、よきかな、よきかな。心地よくて て俺も飽き満ちた」

「はぁ、ふぅ……はぁ、っ」

ずる、と中から魔羅が引き抜かれて、その感覚にすら刺激が走る。ぐったりと身体を横たえて静かな呼吸を心がけ、一所懸命自分を落ち着かせた。

「身体も細く、歩き回り、顔も隠さず、言ふ甲斐なくわびしい者かと思ったが、こうしてみると放っておくのが惜しい女であった。なぁ、小狐よ?」

「……ぬしさま……っ」

三日月に話しかけられた小狐丸に目を向けると、小狐丸は膨れた魔羅を握ったまま煌々とした目で私を見つめている。三日月の言葉は私には所々わからないけど、同じ産まれの小狐丸にはちゃんと通じているんだろうな。後でちゃんと説明してもらいたいものだ。やっと身体の熱が下がってきたと思ったら、私は身体に明らかな違和感を感じた。

「……っ、」

「主よ、どうした?」

「……わ、かんな……中が、ムズムズする……っ」

中が疼くみたいにムズムズして、痒い。自発的に刺激が欲しくて疼くのとは明らかに違うし、今までこんなこと無かった。指を入れて中を掻き回したい衝動に駆られるが、そんなはしたないこと二人の前ではできない。第一、指でなんとかできるかもあまり自信がない。助けを請うように二人の顔を見れば、小狐丸はキョトンとして、三日月は気持ち悪い笑みを浮かべていた。……もしかして、三日月、またお前か。

「……三日月……?」

「はっはっはっ!性具も捨てたものではないな!」

「せ、性具、って……」

「そうだ、これだ。肥後ずいきだ!いやー、良いものを手に入れた」

「ちょ、ちょっとっ!責任とってよ!馬鹿!」

「責任というのは、魔羅でとれば良いのか?」

とんてもないことを言われてカァっと顔が赤くなる。しかし赤くなったのは見当違いのセクハラをされたからではなく、私が胸の何処かでそれを望んでいたからで、そんなはしたない自分が恥ずかしかったからだった。三日月は相変わらず笑い声を上げながら、起き上がった私の頭をぽんぽんと撫でる。

「しかしなぁ。老体は一度で飽き満ちてしまってな、これ以上はちと辛いものがある。どうしたものか…………あ」

いかにも名案、といった感じで私の顔をそちらにくりと回し、私は必然的に眉根を寄せた小狐丸を見る。小狐丸は辛そうに握った魔羅を上下に動かしていたが、私がそちらを見るとまたキョトンとした顔になった。三日月が笑い声を上げる。

「良いところに、発情した狐がおるぞ。丁度良いことに魔羅もデカいな」

「はぁっ?」

「魔羅で責任をとって欲しいのだろう?そうだなぁ、時雨茶臼で鳴かせて貰え」

最低だ!この爺最低だ!そんな風に言われて、あいわかったではまぐわいましょう、となるわけ無いだろうが。それは私だけでなく、きっと小狐丸も同じ……だと思って小狐丸を見ると、彼はそこにいなかった。

「小狐丸?」

「……ぬしさま、こっちです」

後ろから抱きしめられて、隙間もないくらい身体を密着させられる。耳元で荒い息が聞こえ、甘えるように首に頭を擦り付けられる。そんな小狐丸にかける言葉も見つからなくて、なんの言葉をかけても意味が無さそうで、私はどうしたらいいかわからなくなった。

「ぬしさま、私もぬしさまの中に、入りとうございます」

「小狐丸……」

「もう、我慢なりません。駄目と言っても、駄目です、します。……しかしぬしさま、ぬしさまは私のかなしきひとなのです、わかりますか?」

「……っ」

わ、わからない。かなしきひととはなんなのか。そりゃ、目の前で散々えっちされて、中が痒いとか言ってたら気分によっては悲しい人というか、かわいそうな人なんだな、って思うけど。でも、ここでわからないって言えないし、小狐丸はもう随分そのままの状態でいるから、辛くて辛くて仕方がないんだろうな、とも思う。本当に辛そうな小狐丸を見ていられない。

「我儘が許されるならば一言、私を求めてください……」

「あっ!や、っアアッ!」

私が何かを口にする前に、小狐丸は私を片手で持ち上げて、片手で魔羅を支え下から私を貫いた。急に串刺しにされ、甘い言葉でもかけてやろうという気持ちは頭の隅に追いやられてしまった。耳元で小狐丸が、低く低く唸るのが聞こえる。その声は恐ろしい程に、獣そのものだった。痒かった中が立派な魔羅に貫かれて、ひくり、ひくりと喜ぶようにうねる。まだ動いてもいないのに、私は小狐丸につられたのか、三日月にされていた時とは打って変わって今度は魘されるように長く喘いだ。

「あーーっ、アァーッあ、アーーッ!」

腰を掴まれて、ずるりと中から魔羅が抜ける。中を擦られる悪寒と、次に来るであろう衝撃に中が震え慄く。逃げ出したい程に、私は期待していた。スローモーションみたいに、腰に添えられた小狐丸の指がゆっくりと少しずつ力を抜くのがわかる。身体が一瞬ふわっと浮いて、次の瞬間には。

「……ーーーッ!!」

声が出たのかすらもわからない。表現するならば、死にそう、だ。身体中に力が入って、硬い岩のようにがっちり固まって重いであろう私を、小狐丸はいとも簡単に持ち上げて振り下ろす。その度に、死にそう、になる。何回も、何回も、今にも、死にそう。

「は、ふぅ……ッ!ふぅッ!ウゥーッ!」

唸り続ける小狐丸の、人の形をしての最後の自我は、きっと我儘を言ったことで事切れてしまったのかもしれない。我儘というのは、自分の思い通りが叶えられないかもしれないという大前提があって我儘と呼ばれる訳で、本能のままに動く獣に我儘はない。その我儘を捨ててしまった小狐丸は正真正銘の獣な訳だ。けれど、でも、私の推測が正しければ、私が人として何か小狐丸に言ってあげられれば、小狐丸は少しでも満たされるのではないか。渇望した獣である小狐丸に、人としての潤いを戻してあげられるのではないか……。そう考えたところで、私は死にそう、なんだけど。意識を手放してしまいそうになりながら、なんとか何か言おうと口を開く。すると何か音みたいなものが、喉の奥からぼろぼろと漏れた。どうしよう、何か意味のある言葉なんか言えそうにない。そうしてるうちにも小狐丸の律動は激しくなり、私の息はさらに乱れる。一層高く持ち上げられて、今迄無いほど奥深くを抉られる。私はもう、身体中を痙攣させながら、すんでのところで死なずに済んで、掴まれた腰を離されたので前に崩れ落ちた。魔羅は中で膨らみ震え、小狐丸はまだフゥフゥと荒い息を零している。今のうちに何か言わなくては。全身全霊で頭を巡らせて、少し身体を捩って小狐丸を見上げた。小狐丸はさっき、私のような欲に溺れたような人間をかなしきひとと言った。小狐丸は悲しい人にはならないでほしい。

「こ、ぎつねまる……、」

「ハーーッ、ハーーッ」

「か、悲しい人になっちゃだめだよ……」

「……?……ぬし、さま?」

「それじゃ、悲しい人だよ……」

「…………私はぬしさまのかなしきひとなのですか……?」

「そ、そうだよ、そのままじゃ小狐丸は、悲しい人になっちゃうよ!」

小狐丸の目が変わる。ハッとした顔をしたかと思うと、私を抱き上げて後ろからぎゅうっと抱きしめた。まだ半分くらい入っていた柔らかい魔羅がずるりと抜ける。痛いほどに力を込められて、身じろぎもできない。

「痛いよ……小狐丸」

「ぬしさま……っ」

小狐丸の顔は相変わらず見えないけれど、今度は恐ろしい呼吸はしていなかった。中に出された二人分の液体が溢れ出す。小狐丸の心臓も、私の心臓も高鳴っている。

「やれやれ、見てられんなぁー」

「みっ、三日月!いたの?」

「いたの、ではないぞ。あー見てられん、面白くない!」

な、なにを……!他人がえっちしてるの見てて楽しい人なんかいるもんか!……いや、いるか。いやいや、そうでなくて、人が神経をすり減らしていたのに、面白くないとはどういうことなのか。というか事の顛末を作ったのは貴方でしょうが。

「主は誰のものでもないという話をした俺が痴だったではないか」

「おこ?」

「えーと、主の言葉で阿呆、だったな……ま、心配しなくていいぞ、本丸の皆には言いふらしておくからな!」

「ちょ、ちょっとまって……!言いふらすって、やめてよ!そもそも三日月はいいの?」

三日月と小狐丸にめちゃくちゃにされたことが言いふらされてしまう。私だったら自分が誰と寝たかなんて言いふらされたら、もう絶対部屋から出られないし、誰の顔も見れない。親の顔でも無理だ。三日月はちょっと口を曲げて、目線を逸らし首を傾げた。

「俺は面白くないぞ。けれど分かちにしことはせむかたなし。男として認める方が潔いだろうが」

「わかにち……いや!でも!とにかく私が困るから言いふらすのはやめてください!」

「なぁに、何も困ることなどない。ま、末長くしあわせにな!さて、邪魔者は去るか」

「ちょ、えっ?」

「狐の香だけ付けておれ。はっはっはっはっ!」

またちょっとわからない言葉が出てきたので聞き返そうとしたら、脱いだ着物を抱いて三日月は出て行ってしまった。取り残された私と、そして小狐丸は相変わらず後ろから抱きついて私の首筋に頭を埋めていた。

「小狐丸、そろそろ離して……」

「嫌です」

「ねぇ、ほら、いろいろ丸出しだから……」

「嫌です。この顔を、ぬしさまに見られとうございません」

「どうして……あ、恥ずかしいの?」

「いいえ……しかし、こんなに嬉しいことがありましょうか」

「……そんなに、私とえっと……まぐわい、たかったの?」

「それだけではありません」

うーん、わからない。自分が脱・悲しい人したのがそんなに嬉しかったのか、小狐丸はしばらくそうして私を抱きしめていた。いやらしいことなんか一切せず、ただくっついているだけで、小狐丸の心臓がずっとどくどく大きく脈打っているのがわかる。どれくらい時間が経ったのかわからないが、小狐丸はやっと顔を上げて、私の顔をじっと見つめて少し笑った。

「ぬしさま、こういう時、ぬしさまの時代でなんというか、私は知っております」

「……なに?」

「…………あ、い、し、て、る、です」

そ、そんなこと、こんな至近距離で言って、私の方がよっぽど恥ずかしいに決まってるじゃないか!真っ赤に染まった私の顔を、小狐丸は嬉しそうににやにや眺めた。



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