06:Zapp
「ええっとお」
俺はスマホの画面をぽちぽちと押す。
「次はステファニーでえ、そん次はミランダでえ、そん後に1回ヤリ部屋行ってえ」
ぽちぽちぽち、とToDoリストを埋めていく。大事なのは計画性だ。スケジュール能力だ。非番の時間は限られている。ならばその限られた時間でより多くの女とファックをしなければ、もったいねえって話じゃねえか!
というわけで絶賛非番中の俺は、絶賛女宅ハシゴキャンペーンの真っ最中だった。
停めてある愛車ランブレッタちゃんの前で、埋められた予定を確認する。ステファニーの家はここから歩いて行けるぐらいに近いが、その次のミランダ宅がちょっとばかし遠方にあるので、面倒だが愛車を転がしてった方が得だろう。
そこまでを計算して、うんうん、と俺様は悦に浸った。なんと素晴らしい計画性か。我ながら自分のサイノーってやつにブルっちまうぜ。
悦に浸りながらフンフンと、鼻唄混じりでランブレッタに跨った時だった。いやァな着信音が聞こえてきたのは。
「…………」
できるもんなら聞かなかったことにしたかったが、ライブラ用の着信音を無視できるはずがない。
アディオス非番。アディオスステファニーそれからミランダ。心の中で泣きながら俺は電話を取った。
「あい」
「ザップか」
声色だけでわかった。面倒だ何だと駄々をこねている場合ではないと。ウチの番頭の切羽詰まったその声が、火急の事態であることを優に告げていた。
「はい、俺っす」
無意識の内に色んなもんが切り替わっていた。ランブレッタにエンジンをかける。ジッポの位置を確認する。神経を戦闘用に尖らせる俺の頭には、もうステファニーのスの字もなかった。
「行けるか」
「すぐ行けます」
「BBだ。場所は××ビル。そこからならお前が一番近い」
あらかじめGPSで俺の居場所を確認したんだろう。俺は頷いた。
「アシあるんですぐ行けます」
「俺たちも今向かってる。ひとりで突っ込むなよ」
「了解」
必要以上の情報はいらない。だから俺はその言葉を最後に通話を切ろうとした。番頭もそれをわかっているはずだ。暗黙の了解というやつで。
なのに今日に限って番頭は「それと」と言葉を継ぎ足してきた。
「これは不確定情報なんだが…」
緊急事態だっていうのに、珍しく歯切れが悪い。俺は眉を顰めた。
「何すか」
「ライトが、ビルの中にいるかもしれない」
突然、何の前触れもなく、隕石を頭に食らったような気分になった。
「××ビルに向かったことまではわかってる。ただ、まだビル内にいるのかまでは掴めていない」
「……GPSは」
「切れてる。端末自体が壊れてるんだろう」
俺は一度、唇を舐めた。気持ちを落ち着かせる必要があったからだ。
「それじゃあ」
「巻き込まれた可能性は高い」
「…………」
「あの子も一応遣い手だ。すぐにやられるようなタマじゃないと思うが、一応、救出も頭の端に入れておいてくれ」
「…………」
「ザップ?」
「……了解っす」
通話が切れた。切れた後も俺はバカみたいに、携帯を耳に当てていた。
あの日以来、クソ女とは話していない。避けていたし、避けられていたと思う。
「――クソッ!」
グリップを捻ってアクセルをかける。触発されたみたいに、心臓が嫌な感じで心拍数を速め始めた。
「あのクソ女! 死んだらぶっ殺してやるからな!!」
振り切るように憎まれ口を叩く。血液がざわざわと粟立って、自分が自分じゃないみたいだった。