01:She




 まずい、と思った時にはもう、宙に放り出されていた。

 何がなんだかわからなかった。反転する天地、落下、耳を聾する轟音。たぶん、同じフロアに居合わせた者のほとんどが、前後不覚のうちに十数階分の高さを落下し、地面に叩きつけられたのだと思う。

 私もそのうちのひとりだった。ただ私の場合は、懐に秘めていた血晶石が、持ち主よりも優秀で利口であってくれたから、運良く一命を取り留めることができただけだ。

 薄めた血液のような色の膜が、剥がれ落ちるようにして消えていく。形成されていた「防殻」の効力が切れたのだ。落下の衝撃を吸収し、雨あられの瓦礫から私を守り抜いてくれた「防殻」は、形成されている間は持ち主を守り通すけれど、ひとたび持ち主への害意がやむと簡単に消えてしまう代物なのだ。

 本当の災いは、これからだというのに。

 瓦礫群が巻き起こした粉塵で、視界は判然としなかった。けれど、十数階分のフロアを瞬時に叩き落とし、ビルの中を地獄絵図に描き変えたバケモノが、ゆっくりと宙を下降してくる姿は、かろうじて捉えることができた。

 ――ブラッドブリード。

 瓦礫の中で這いつくばったまま、私は微笑った。手持ちの血晶石は、「防殻」用があとひとつきりだった。





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