無題


>>高←銀←桂



 青く澄んだ空を切る異星の船を見上げる傍らの男。その横顔を見ながら、言葉になれなかった息を吐く。虚しさと悲しみと、そして怒りの滲んだそれは、ほんの少し白く浮き上がって消えていった。

「銀時、」

 秋が終わりを告げ、冬の訪れを間近にしたこの街。相も変わらず、人の醜い面も美しい面も併せ持って流れるその景色が何故だか羨ましく思えた。
 この数年、己では進んでいると思っていたが、どうやらそれは勘違いだったらしい。後退していないのが、救いか。

「俺は、この街を捨てられなんだ」

 無意味な破壊を企てていた己の前に、この強くも儚い男が現れたのが随分と前のことのように思える。かつてと変わらぬその魂に、沈みかけていたこの身は掬い上げられた。破壊ではなく、その先の構築、鮮やかな未来を望むようになった。
 元より、己には破壊などと大それたことは出来なかったのだろう。大義名分を掲げても、心のどこかでは迷っていたのだろう。今思えば、尊敬してやまないあの人の姿が霞んでいた。
 あの人のようになりたいと、ずっと思っていた。なのに、いつしかあの人とはかけ離れた道を進んでいたのだ。

「この街を、この街に住まう大切な人々を、護りたい」

 護りたいと願ったものを取りこぼしてきたこの手。刀を握ることしかできなかったこの手を掴んで、引いてくれる人を、護りたいと願う。
 きっと、この強くも儚い男がそうであるように、己の護りたいもののために命を懸けたい。

「銀時、おぬしは‥」

 護りたいと願うもののためならば。そんな言い訳をして、己がすることはかつての友を斬ることだ。
 幼き日を共に、あの人と共に過ごした友。血と泥に濡れながら、背を預け戦ったあの戦場を共に生きた友。
 その友を、殺すのだ。

「貴様にとって、高杉は‥」

 言いかけて、口を噤む。
 本当ならば、今この男の隣に居るべきはあの獣と化した男なのだ。愛し、愛され。共に生きると誓い合った、あの男であるべきなのだ。
 けれど、今この男の隣に居るのは己だ。そこに罪悪感こそないが、優越感もない。ただ、虚無感だけが広がる。

「‥、空、青いな」

 少し嗤って、傍らの男は息を吐いた。そこにあるのは悲しみなのか、今は隣に居たとて、己には分からない。奴ならどうするか、と考えて、そのくだらなさに嘲笑を零した。
 どう足掻いても、あの男にはなれない。ましてや、なろうとも思わない。ただ、傍らの白き男に愛されたあの男を羨ましく思うことはあった。

「‥‥そうだな」

 己の精一杯の返答。気の利いた言葉など浮かばないし、言ってやることもできない。それでも、この男の隣から離れることはせずにいよう。そう勝手に誓うだけだ。
 それでも、きっとこの男が望むなら。最期くらいは、あの馬鹿な友に譲ってやってもいいかと思った。



END.

雰囲気シリアスです。はい。
ずっと一緒だった友、そして愛した人と戦うって辛いよねっていう。

2011.8.1


back