犠牲、厭わず


>>坂銀
※第三百五十四訓ネタバレ



 エリザベス、否、蓮蓬たちによる侵略を受ける地球を眺める面々。
 彼らの侵略計画を語る坂本を、銀時と新八は嫌な予感がしながらも見つめる。

「あの化け物どもを地球につれこんだのは、ワシじゃき」

 辰馬は何でもないことのように告げた。
 先までと変わらない笑顔で、しかし、先よりも黒い雰囲気を纏う辰馬を、新八は信じられないという表情で見つめた。

「坂本さん‥、そう言えば」
「そうじゃ。桂に奴らん調査部隊のリーダーば紹介したんは、ワシじゃ」

 前に桂がそんな話をしていた、などと新八の脳の冷静な部分が思考する。何と言えばいいのかわからず、傍らの銀時を見上げれば、普段と何ら変わらない彼が居た。

「なるほどな」
「え?」

 一人納得したように呟いた銀時は、これまで新八が見たことないような冷めた笑いを浮かべた。

「あいつらが地球に潜入する手引きをする替わりに、奴らに俺を監視させてたわけだ」

 思いも寄らない銀時の言葉に、新八は戸惑いを隠せない。異様な雰囲気が満ちる中、坂本と銀時を交互に見る。

「監視ゆうほど大したもんじゃなかよ」
「俺の行動を逐一報告させてたんだろ。一緒じゃねぇか」
「違うきに。見守っちゅーがか」

 全く話に付いて行けず、新八はただ2人のやりとりを見ていることしか出来ない。

「で、突然奴らの侵略が進んだのは、どういうことだ」
「そげな、決まっとる。あの国ば、壊すきに」

 さらりと告げられたそれに反応したのは、新八だけだった。銀時は予想出来たらしく、ただ無表情に坂本を見ている。

「銀時は傷付き過ぎじゃ」

 それまでの笑顔が消え、坂本は辛そうに目を細める。そんな姿に新八も眉をひそめた。
 銀時が傷付く姿を幾度も見てきた新八も、彼が少しでも傷付かないことを願っている。

「銀時を傷つける国なんぞ、世界なんぞ、いらんきに」
「極論すぎんだろ、馬鹿本」

 坂本のマフラーを掴み引き寄せ、数センチの距離で銀時は溜め息を零した。呆れたようなそれは、どこか嬉しさと悲しさを滲ませている。

「どんだけ傷負おうが、俺ァ死なねぇよ」

 サングラスを奪いながら告げられた言葉に、坂本は静かに銀時を見つめ返す。一瞬の沈黙が、まるで永遠に続くかのように感じられ、新八はただ息を飲んだ。
 自分には入れない、瞳で通じる想い。それほどに深い彼らの関係を目の当たりにして、嫉妬に似た感情が生まれていくことに戸惑う。

「・・わかったき。すまんかった、銀時」

 悲しそうに微笑んだ坂本に、銀時は表情を和らげる。掴んでいたマフラーを放し、奪ったサングラスを放って返す。
 銀時から受け取ったサングラスを掛けながら、坂本は蓮蓬による侵略が刻一刻と進む地球を見下ろす。

「おめぇの事だ。奴らの居場所くらいわかんだろ?」

 すっかり普段の雰囲気に戻った銀時は、床で爆睡している桂を足で、神楽は手で揺すって起しにかかる。

「さて。この馬鹿げた雲、晴らそうじゃねぇか」

 ニヤリ、と笑った銀時に、新八は元気に返事を返す。坂本も笑いながら頷いた。



END.

黒本目指したけど、聖母的銀時を前に呆気なく浄化されました。
銀時が傷付く→国のせい→いらない→壊す。という恐ろしい極論を、銀時以外の攘夷組3人は常に持ってるんじゃねーかという妄想でした。

2011.6.4


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