恋い焦がれる季節 04
どれくらい走っただろうか。別れてからそれほど経っていないのだから、きっとわずかな時間だったのだろう。けれどそれは十分な時間だった。
「土方ッ!」
無我夢中に走り回っていた土方は、探していた人物によって動きを止められた。振り返った先に掠めた銀色に、土方は驚きと喜びで目を見開いた。
「よろ、ずや‥」
乱した息は白く浮き出しては、溶け込むように消えていく。思いのほか近い2人の距離によって、互いの白が交じり合う。そして、絡み合う視線がその場に沈黙を生み出す。
外せない視線、から回る言葉の数々。
「土方、俺‥」
「万事屋、あのな‥」
零れるように呟いた言葉が、浮かび上がる白が、重なり合う。しん、と空気が張り詰めた。辺りには人どころか、野良犬すらいない。
寒さのせいか、指先が震える。
「「好きだ」」
静寂に重なった想いを伝える言葉。自分の声に重なったそれに、両者はキョトンと見つめあった。混じり合った互いの吐息は、白い余韻を残してすぐに消えた。
「今、何て?」
「お前こそ‥」
何が起こっているのかわからない、という表情をする銀時と土方はただ見つめあう。そして、次の瞬間には同時に噴き出した。
「そーか、そーかッ!お前も俺の事―」
「うっせぇ‥!黙っとけッ!」
照れ隠しなのか、耳を真っ赤に染めた土方は俯いてしまっている。対する銀時はこれ以上ない、というほどに嬉しそうに笑って目の前の彼を見つめている。
対照的な二人は、沸き起こる同じような温もりに包まれた。
「なぁ、土方‥」
愛おしい瞳で彼を見つめる銀時を見やり、土方は小さく舌打ちをすると腕を引き寄せて抱き寄せた。互いの頬に触れた髪は一瞬にして体温を受けてその冷たさを失う。それは触れ合った体も同じで、じわじわと服を、素肌を温めていく。
「好きだ‥銀時」
「お、俺も‥土方」
冷たい風が吹き抜ける中、互いの体温を分け合うようにしっかりと抱き合う。ふふ、と笑い声を零す銀時に、何だ、と問いかけると、抱き締める腕にさらに力が込められる。頬を擦り寄ってくる銀時に負けじと、土方も腕に力を込めて二人の距離を縮ませる。
これ以上ないほどに密着すると、銀時は吐息を零す。
「あったけぇ」
その言葉に同意するように、土方もまた吐息を洩らした。
先程とは違った心地良い沈黙を感じながら、今頃ほくそ笑んでいるであろう少年を思い出して、二人は同時に空を見上げた。してやられたことに多少の悔しさはあるものの、今回は感謝してやらないこともない。が、今は想いの通じ合った愛おしい相手を抱き締めることは精一杯なので、彼の少年のことはひとまず頭の片隅に追いやることにした。
END.
その昔に出したコピ本をちょっと直したもの。
一部は絵描きの友人による漫画でした。これがまた素敵でね!銀時めっちゃ可愛くてね!
2013.12.26
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